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眞洋がスーツを着る。ジャッケットの下にはお洒落な刺繍 が入ったベスト。腰の部分がわずかに締まっているから、眞洋の体型が余計に綺麗に見える。
「眞洋はやっぱり綺麗だな」
ソファに座り、足をプラプラさせながら言うと、ネクタイを締めようとした眞洋が手を止め、僕の方を向いた。
「…ねぇ、くすな?あまりその…見つめられると照れちゃうわ」
「そんなに見て居たか?」
「えぇ、もうばっちり。ずっと見つめられてたわ」
「そうか、眞洋が嫌なら少し控える」
髪がもっさりでも、眞洋の体は綺麗だな。と言葉を続けたら、あーもうと前髪を両手でかき上げながら眞洋がその場にしゃがみこむ。
僕は首を傾げ、なぜか声を荒げた眞洋をじっと見た。
「僕は、何か気に触ることを言ったか?」
「いえ、違うのよ。くすなは悪くないの」
眞洋はそのまま後ろ手に髪を結い、ふっと息を吐くと、ねぇ?と口を開いた。
「…貴方はとてもいい子よ?素直だし、嘘もつかない。でもその…綺麗って、言葉はあまり軽々しく言っては駄目よ?」
「……軽々しくなんて言ってない」
眞洋の言葉にムッとしながら返せば、そうなの?と眞洋が驚く。
「綺麗だなんて、眞洋にしか言わない」
僕の言葉に、眞洋はそうじゃないのよ…!と床に手をついてうな垂れた。
写真や図鑑を見て綺麗だなとか、可愛いなと感じる事はあっても、そのどれよりも一番眞洋が綺麗だと思った。
だから、仕方がない。口から勝手に溢れてしまう。
「………くすな」
ふと、顔を上げた眞洋と目が合う。紫の瞳が僕をまっすぐ射抜くように見つめてくる。
「? 眞洋?どう、し、」
眞洋の大きな両手が、僕の顔を包むように両頬に優しく触れた。
「貴方の髪も綺麗よ。赤い目も、この白い肌も。貴方の心も、真っ直ぐでとても綺麗よ」
目をそらせない状況で、眞洋が囁くように言葉を紡いだ。綺麗だと、言う事はあっても言われた事はない。その事実を認識した途端、顔に熱があつまる。
「ね?言われると恥ずかしいか、ら…」
僕の顔はきっと、今までにないくらい真っ赤だと思う。顔が暑くて、頬に添えられた眞洋の手がひんやりしていて、でもまっすぐに見つめ返せなくて視線を逸らした。
「……くすな?」
「っ、な、んだ」
「ふふ、真っ赤ね」
「顔が熱いだけだ。あとちょっと今、眞洋を見れないだけだ」
ぎこちなく逸らした視線。眞洋の手が離れると、少し寂しい感じがした。
「…僕は、…」
「ん?」
「僕はあまり、他人と関わったことがない。だから、失礼な事をしていたら教えて欲しい。眞洋が嫌がる事はしたくない」
視線を逸らしたまま告げれば、立ち上がった眞洋が僕の頭を撫でた。見上げると、困ったような、表情で。
「…嫌な事なんてないわ。ただ少し、手を、出してしまいそうになるから…、照れてるだけよ」
「……手を出す…?」
「そう」
「って、なんだ?僕はやっぱり、何か不快な事を」
「違うのよ。くすな、違うわ。大丈夫よ。貴方にされて不快な事も、嫌な事もないわ」
この部屋に来て、3日。
僕は、眞洋と暮らして、色々な事を知って、少し舞い上がっていたのかも、しれない。
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