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「眞洋のそばに居られないのは、悲しい」
小さく呟いて、眞洋から離れる。もう、いつもの紫色の瞳に戻っていた。
「手を出すって、なに」
首を傾げながら聞くと、グッと言葉に詰まりながら眞洋が視線を彷徨 わせる。
「眞洋、手を出すって、なに?」
もう一度同じ言葉を言えば、眞洋がフッと息を吐いた。ひたいに手をかざしながら、あのね?と口を開く。
「………正直、私から見た貴方はとても魅力的よ?真っ直ぐだし、嘘はつかない。いつだって素直だわ。だから、その、………抱きしめたり、キス、したくなる、と言えばわかるかしら」
「きす」
「そう」
「………恋人や、夫婦間で、愛を確かめる時にする行為だと書いてあった」
「そう、そうね、いや、いざそう言われるとなんだか恥ずかしいわ…」
あぁあ、と眞洋が両手で顔を覆いながらうな垂れた。少しだけ耳が赤い。眞洋が言う、手を出すと言うのは、
「眞洋」
「なぁに?」
「多分、眞洋にされて嫌なことは、僕にはない」
「は」
少しだけ想像しても、嫌悪感 なんて全くない。だから、眞洋にされて嫌なことはない。強いて言うなら、離れるのが嫌だ。そばにいて、まだ色々な事を知りたいし、体験したい。
広い世界を知る時も、眞洋がそばにいないのはもう想像が出来なかった。
「だから、眞洋。そばにいない方がいいなんて、言わないでほしい」
「……」
「僕は、一度帰るけど…眞洋のそばにいたい。さっきも言ったけど、僕は理由を知らなきゃいけない。あの部屋に閉じ込められていた、理由を」
「……貴方は、自分がアルビノだって知ってる?」
眞洋が真剣に、でも心配そうにそう問いかけてくる。
僕は〝僕に対して無知〟だった。この髪も目も、普通だとずっと思っていたから。多分、この髪と目が原因なんだろう。けれど、僕にも親はいるはずだ。僕を閉じ込めていたのが親なら、話を聞きたい。
〝何故なのか〟
あの生活に、意味はあったのか。
18年をただ無為 に過ごしたのか。
どうしても、知りたい。
「くすな」
「…なんだ」
「貴方が危険な目にあったら、助けに行くから、名前を呼んで頂戴?」
眞洋が僕の手のひらに黒い小さな指輪を置いた。とても小さくて小指に入るかどうかくらいだ。
「忘れないで、私は―――」
紡 がれた言葉と共に、唇が触れた。
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