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眞洋の家、所謂(いわゆる)マンションの一室な訳だが、やっぱり広い。リビングに、寝室、書斎、客間が二つに使ってない部屋が一つ。 浴室に脱衣所にトイレ。 まともに歩けるようになってから確かめるように回った。 「眞洋、これは?」 書斎の本棚には見たことのない本がたくさんあった。図鑑や写真集、小説もある。 「あぁ、それは妖怪の歴史って言う本ね。私が人じゃないのと同じで、少し山の方に行くとそういう子たちが沢山いるわ」 「沢山、とは」 「そうね…」 本を手に取り、首を傾げながら聞く僕に、眞洋は顎に手を当てながら口を開いた。 「わかりやすく言えば、鬼、ね。鬼が統治(とうち)する場所…かしら」 「おに」 「そうよ、よく見る角の生えた子も居たかしら。歴史の本とはだいぶ違うから最初は信じられなかったけれど」 くすくす笑う眞洋は、昔を思い出しているようだった。僕と同じで親の顔を知らないけど、誰かに拾われ育てられたのは、紛れも無い幸運だったのでは無いだろうか。 「……眞洋は、鬼に拾われたのか」 「…私を拾ったのは、―――」 ピンポーン 言いかけた時、呼び鈴がなり、眞洋は口を閉じてにこりと笑うとお客様かしらと書斎を出て行った。 僕はまだ、あの戒と言う人以外に会ったことがない。扉の陰から玄関を見ると、やっぱり知らない人物がそこに居た。 「……」 何を話してるのかは分からないけれど、僕も行った方がいいのだろうか。さっきの妖怪の本を胸に抱えたまま眞洋を見つめる。 眞洋と話しているのは黒髪の男だ。眞洋と同じくらいの背丈。僕からしてみればだいぶ大きい。じっと見つめていると、眞洋が振り返り、手招きをする。 僕は本を胸に抱えたまま、少しだけ落ち着かなくて困ってしまった。 「眞洋」 二人に近づき、眞洋を見上げた。 「くすな、この子は優呉」 「ども」 黒髪の男が軽く会釈をして、僕もわずかに頭を下げた。 「……」 「きょうは荷物を届けに来ただけなんで、このまま帰るから、後で兄貴に連絡しといて」 彼はコンビニ袋を眞洋に渡し、すぐに帰ってしまった。僕は音を立ててしまった扉を見つめながら、ほっと息を吐く。 「ねぇ、くすな」 「なに」 「―――どうしたの?」 「え?」 眞洋がコンビニ袋を床に置き、僕の頬に手を添える。心配そうな紫の瞳と視線が絡まって、僕は目を見開いた。 「顔色が悪いわ。どこか痛んだり…調子悪い?」 「……違う」 小さく答えた。 違う。多分僕は 「怖い。………怖いんだ」 あの日、あの屋敷で言われた言葉が頭の中でぐるぐるしている。 「…外に憧れてた。ずっと、綺麗なものと可愛いものと、自分が好きなものばかり、で……でも、…僕の頭からあの男が言った言葉が離れない」 眞洋は、僕を必要としてくれている。だけど、それでも 「気にするような事じゃないと思う。分かってる。でも、僕は普通に生きていけるか?18年を無駄に過ごして、こんな…っ」 「…無駄じゃ無いわ、くすな」 眞洋が僕の頬に添えた手で、いつの間にかうつむいていた顔を上に向けた。悲しそうな眞洋に、僕はまた目を丸くしてしまう。 「貴方が18年を過ごしてなかったら、会えなかったもの。過去がなければ、今はないのよ?私が好きな貴方を、否定しないで」 「―――…すき?」 目を丸くしたまま繰り返した僕に、眞洋がアッと声を上げて手を離した。額に手をかざしながら、眞洋がはぁと息を吐く。 「…私はくすなが好きよ。だから、貴方自身が、貴方を否定するのは悲しいわ」 「眞洋が悲しむのは、嫌だ」 「それなら、お願いよ。ね」 僕は小さく返事をして、眞洋に抱きついた。背中に腕を回して、ギュッと力を込める。あぁ、もう。どうしてくれるんだ。 なら僕も、同じだ。

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