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眞洋の手を取って、部屋まで歩いた。いつもより眞洋の手が熱い。二人の靴音がやけに響いて聞こえて、僕は柄にもなく緊張してしまっていた。 眞洋のものになる?僕はもう、それこそきっと出会ってからずっと眞洋のものだ。今更確認しなくても、なんて口には出さないけれど。早くもなく、遅くもない速度で歩く眞洋の横で、少しだけ横顔を見上げると、それに気がついた眞洋が「ん?」と笑う。 …あぁ、綺麗だ。 部屋の扉の鍵はカードキーで、ピピっと内側から音がすると開く仕組みになっている。オートロックだから、僕が部屋に入ると背後から同じ音がした。 靴を脱いで、靴下を脱いでいると、眞洋に抱き上げられて、体が傾く。 「眞洋、まだ脱いでない」 「いいのよ、今から脱ぐから」 「………?」 肩に担がれたまま首を傾げると、眞洋が風呂場の扉を開けた。よいしょと降ろされて、僕は眞洋を見上げる。 眞洋は髪を解いて、落ちてくる前髪をかきあげると「上着、脱ぎましょうか」と笑った。薄手の黒と灰色のパーカーを脱ぎ、シャツとズボンに、中途半端に脱いだ靴下と言う格好になると、眞洋もスーツを脱ぎ、ワイシャツをスラックスからするりと抜いた。 「……目、閉じて」 僕の頬を撫でながら眞洋が言葉を紡ぐ。おとなしく目を閉じると、いい子、と言う言葉と唇にむにゅっと何かが当たる。 眞洋の唇だと理解すると、触れるだけで離れた。 浴室は広いから、僕と眞洋が二人でいても窮屈な感じがまるでなくて、むしろ声も響く。 「っ、」 離れて、触れて、また軽く触れる。啄ばむような口付けを繰り返して、少しだけ物足りない。眞洋の名前を呼ぼうと口を開いた。 「ん、っ、む」 ぞわり、と背中が浮くような、力が抜けるような。名前を呼ぶために開いた唇は、他でもない眞洋によって声音ごとのみこまれた。ごつ、と浴室の壁が背にあたり、訳がわからない浮ついた感覚に体が支配されていく。 唇の隙間からぬるりと入り込んできたのば眞洋の舌だと理解が及ぶ頃には息も絶え絶えになってしまっていた。 「…ま、ひろ」 「なぁに?」 「もっと、して」 どろどろになった思考回路で、気がつけばそんな言葉が漏れていた。体も熱い。僕も、くっついている眞洋の体も、熱い。 「…いけないこと、してる気分になるわね」 はぁ、と眞洋が息を吐き額にキスを一度。目頭に一度、頬に一度、そして僕の耳元に唇を寄せて、「腕、回して」と囁いた。 眞洋の首に腕を回して、ゆっくり背伸びをする。触れて、離れて、僕は眞洋の唇を舐めた。 「まひろ」 呂律がまわらない。ついでに、思考も回路ごと焼き切れたみたいに体が熱かった。 「…まひろ」 もう一度名前を呼べば、眞洋が噛みつくように唇をふさぐ。ふぁ、と息をすると、するりと入り込んだ舌に上顎をなぞられてくぐもった声がもれた。舌を絡め取られてびりびりと腰あたりから熱が広がって、理性が剥がれていくような気がする。 「好き、よ」 キスの合間に、眞洋が荒々しく言葉を吐いた。 「…っ、ん、」 「……はっ、くすな、甘いわね」 「あま、い?」 それはきっと、眞洋の方が。 「どこもかしこも、」 つつ、と眞洋の唇が首筋をなぞり、噛まれる。いたいと訴えれば、そこをゆっくりと舐められて、視界が歪んだ。 首に回した腕で、眞洋の肩を押す。 「…甘くて、止まらなくなるわ」 眞洋の目を見上げて、息を飲んだ。 捕食されそうな眼光に魅入ってしまう。綺麗で、だけどそれだけじゃない。ギラギラしたそれ、は。 「すき」 あぁ、全部、欲しい。

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