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「決める?」
「ええ」
「誕生日を?」
「そうよ?くすなの誕生日、お祝いしてあげたいもの。貴方が今ここにいる、生まれてきてありがとう、って、お祝いよ」
「お祝い…」
ポツリと繰り返した僕の頭を撫でながら、眞洋がそうよ、と言葉を続けた。
「…なら、今日がいい」
「今日…?」
「そう。今日がいい」
抱えた膝を下ろし、ソファの背もたれに体をぐっと預けながら眞洋の方を向いた。じっと見つめると、眞洋がなぁに?と微笑む。
「僕は眞洋にも生まれてくれてありがとうと言いたい。今でも、毎日でも。だから、今日がいい。僕がずっと眞洋のそばに居られるなら、そう二人で決めるって、望んだ日がいい」
眞洋をまっすぐ見つめながら、僕は言葉を紡ぐ。眞洋は驚いたように目を丸くすると、僕の頬に手を伸ばして、やわやわと撫でる。それが擽ったくて、少し身をよじった。
「くすなは」
「?」
「…くすなは男前で困るわ。…なんだか、私の方が照れちゃうもの」
少しだけ顔を赤らめた眞洋は僕の頬から手を滑らせてシャツの襟から見える鎖骨を指先でとんとんとたたく。首をかしげる僕を抱き寄せながら、そこに顔を埋めた。
「っ、ん」
ちくりとした痛みの後、裾から入り込んでいた手にシャツをたくし上げられる。
「脱ぐのか?」
「脱がせるのも好きなのよ?私」
浴室の時のようにシャツを脱がされて、唇を塞がれた。触れるだけのキスじゃなくて、またべりべりと理性が剥がれるような、体から力が抜けるような。
ゆっくりとソファに横にされてもやまないキスに息が苦しくなる。ぞわぞわと這い上がる言い知れない感覚に身震いをしながら眞洋の腕を掴んだ。
「っ、ふぁ、は、…は、っ、は、」
ぎゅっと腕を掴みながら、覆いかぶさっている眞洋を見上げる。ハニーブラウンの前髪から金の瞳が見えた。
「あ、…まひろ、……綺麗」
徐々に黒髪に変わるのをじっと見つめる。
「やっぱり、眞洋は綺麗だ」
黒髪でも、そうじゃなくても。変わらない。僕が好きな眞洋のままだ。そう言葉を続けると、眞洋がふふ、と笑う。
「私のシャツ、脱がせてくれる?」
「………ぬがせる」
「そう、ボタンを外してくれたら助かるわ」
横になった体を起こし、眞洋は僕の方に腕を回し、首の後ろで指を組む。じっと見つめられたまま、眞洋のシャツのボタンを上から一個づつ外していった。
正直、眞洋の身体は心臓が痛くなるくらいに綺麗だ。指でなぞりたくなるくらい、彫刻みたいで、僕は緊張してしまう。
全部で六つ。最後のボタンを外し終えると同時に唇を塞がれ、入り込んできた舌に上顎から、歯列をなぞられて舌を絡め取られる。
「ん、む」
キスの合間に息をして、またすぐに塞がれて、背筋からくるぞわりとした感覚が次第に熱に変わっていく。
「…ふ、ぁ…」
唇の隙間からくぐもった声が漏れて、離れた。
「いい顔」
「……ぞわぞわする…」
「それは気持ちいいって事ね」
首に回っていた腕が解かれて、指先が脇腹を撫でながら肋骨を辿る。心臓の位置で指がとまり、眞洋はそこに口付けた。
「…いいの?」
「?」
「私のものに、なってしまっても」
少し不安げな瞳と視線が絡み、僕はふと息を吐いた。
「僕は最初から眞洋のものだ」
「―――今日は、お祝いね」
私にも誕生日はないのよ。そう笑った眞洋に、僕も笑う。
「なら、今日が僕と眞洋の誕生日だ。生まれてきてくれて、ありがとう。眞洋」
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