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少し浮き出た肋骨を指でなぞりながら眞洋がうーんと唸り、僕は首を傾げた。 「痩せ過ぎてて心配だわ…くすなはあまりお肉を食べないものね」 「…眞洋の身体が綺麗なだけだ。僕は必要最低限の食事で構わない」 ぴく、と身体が跳ねる。眞洋の手の動きにいちいち反応してしまって、悔しくなってくる。 「眞洋」 「あら」 肋骨をなぞる手を掴んで、眞洋の名前を強めに呼んだ。 「…僕の心臓も、僕自身も、眞洋の物だから好きにして構わない」 掴んだ手を心臓まで引き寄せて、まっすぐに眞洋を見れば、手のひらが心臓の位置でぴくりと動いた。 眞洋はまだ少し、不安なのかもしれない。 「…心臓、早いのね。緊張してる?」 短く息を吐き、眞洋が小さく呟いた。当然だろうと答えながら、胸に置かれた眞洋の手の上に手を重ねて、ゆっくりと目を閉じる。 「僕は、眞洋が欲しいって、言った」 「…………貴方には敵わないわ」 重ねた僕の手に、眞洋が一度キスをして、僕は目を開ける。 あの日、あの男は眞洋を目にして「天狗」と言ったけれど、僕にして見れば眞洋は綺麗で、天井まで届くような大きな羽が背中に生えていても、妖怪というよりは、神聖なものに見えた。 「はね」 「―――…くすな、私は、見ての通り、化け物よ」 切れ切れに、だけど確かに紡がれる言葉を、僕は静かに聞いた。 「でも、貴方と共に生きる未来が欲しいの。だから―――」 ばさり、と羽が僅かに風を生んで消える。 最後の言葉と同時に、触れるだけのキスと、左手の平に、僅かな感触。見れば、無くしたはずの小さな黒い指輪があった。 それを目にした瞬間、堰を切ったように溢れ出した涙を、眞洋の唇がすくう。 「泣かないで」 目尻を指で拭いながら、眞洋が嬉しそうに微笑んだ。違う、こんなに泣きたいわけじゃなくて、眞洋にちゃんと言葉を返したいのに、音にならずに嗚咽と消える。 「…その指輪は、私が選んだ人の元に必ずかえるまじないがかかってるの。だから大丈夫。ね?」 「っ、」 「あぁ、ほら。……泣かないで。お祝いなんだから笑って頂戴」 両手で包み込むように頬を撫で、目尻の涙を拭い、眞洋が微笑む。今、僕の胸に浮かんだこの感情は、哀しみじゃない。かなしいはずかない。嬉しくて、だからそれを伝えたいのに言葉にならない。 それでも、涙に濡れた顔で、僕は今、笑えているだろうか。 「くすな、全部、もらってもいい?」 全ての出来事には始まりがあって、その始まりの原因は様々だ。僕も眞洋も、きっと様々な出来事の中で偶然出会ったんだろう。 でもその偶然は、地球規模にして見れば奇跡にも近い、言って仕舞えば、一度取り逃がしたら二度目はないかもしれない。 だから、取り逃がさないように、ずっと離さないように。 離れないように。 「っ、は、…ん」 ソファではなく、眞洋の寝室に移動して、ベッドに座るとすぐにキスを交わしながら体をゆっくりと倒される。時折舌先を吸われてくぐもった声が漏れた。 唇から首筋に移動しながらちくりとした痛みに短く声をあげた。ジワリと広がる浮ついた感覚に、視界が歪む。 視界に揺れる黒髪がもどかしくて、眞洋の髪を力なく引っ張った。 「…ぞわ、ぞわ、する、って、…っ、」 「……気持ちいいって、言うのよ」 いつもより息の荒い、少し低めの声音に心臓がぎゅっと痛くなった。あぁ、だめだ。 「まひ、ろ」 「ん?」 「すき」

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