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お姫様

初めて一人で向かう学校。 いつも隣を見上げると在る優しい顔がない。 その代わりに居るのは沢山の知らない人達。 ベタベタ触ってくるし、ワケの分からない話ばかりする。 気持ち悪いし、怖い。 だけど学校に着く迄の間だ。 必死に我慢して乗り切った。 その日を境に僕は一人で居る時間を増やした。 そのお陰か周囲の征道への悪意の目は減った。 が、僕は常に沢山の人達に囲まれて毎日怯えながら暮らす様になった。 最近のチカ様プルプル震えて小動物みたいで可愛い。 監禁したい。 飼い殺したい。 守ってさしあげたい。 前迄なかったそんな声さえ増える始末。 征道は毎日心配そうに僕を見ているが、僕が助けを求めないので見るだけで何もしない。 いや、多分出来ないんだ。 自立したいんだ。だから手助けはしないで。したら嫌いになるからね。って、僕が言ったから。 征道が居ない毎日は異常な位疲れる。 「王子様は見付かった?」 母様に聞かれ左右に首を振ったら 「チカの王子様は意外と近くに居るかもよ?」 母様は不思議な言葉を口にした。 近く? 何処だろう。 本の中かな?それともTV?夢の中? 聞くと母様は笑いながら 「内緒」 可愛らしく人差し指を口に当てた。 「チカ」 放課後不安そうな顔の征道に声を掛けられた。 「一緒に帰ろ?」 そろそろ2回目の発情期が来る。 1回目は薬で乗り切れたし、フェロモンが放出される様になったとは言え、自分では今迄となんら変わらない。 が、まだ始まって数ヶ月はフェロモンが落ち着かない場合もあるので薬が効きやすい体質でも安心は出来ない。 そのせいか、征道は心配なのだろう。 だが、まだ始まりそうな気しないし、大丈夫だよね? 「ううん。一人で帰る」 断り、教室を出た。 が、絶対大丈夫と思い込むのはある意味悪いフラグだったのかもしれない。 学校から離れて駅に着いた時だった。 「チカ様」 突然数人に囲まれ駅のホームから何処かへと連れ去られそうになった。 「チカ様甘い匂いがします」 「ヤベェな俺我慢出来ない」 匂い? 自分では匂わないが、どうやら発情期間近でフェロモンが増えているらしい。 移動させられながらも時折触られる身体。 気持ち悪くて吐き気がする。 嫌だ、助けて。 助けて征道っ!! 逃げようと踠いても非力過ぎる自分の力じゃどうする事も出来ない。 嫌だ、怖い。 涙目になりながら 「助けて」 声を出したら 「ソレ合意じゃないよね?」 初めて聞く声が耳に入り、えっ?顔を上げると 「!?!?」 驚きの光景が目に入った。 物凄く綺麗な人が僕の周囲に居た人達を殴ったり蹴ったりして瞬殺していた。 …………えっと、何?この状況。 さっき迄僕を無理矢理連れ去ろうとしていた変態達が地面に倒れている。 数人居た筈なのにたった一人であっという間に倒すなんて、この人めちゃくちゃ強い。 「大丈夫?」 恐怖と驚きから固まり動けなくなっていた僕を心配して声を掛けてくれた綺麗な人。 「取り敢えず此処じゃ誰か来たら不味いから移動しよ?」 駅の待合室に移動した。 「どうぞ」 ペットボトルの冷たいお茶を渡され 「ありがとうございます」 口を付ける。 冷たくて心地良い液体が身体を潤す。 と同時に涙が出てきた。 「怖かった」 泣きながら口にすると 「良かった。助けれて。もう大丈夫だから安心して?」 優しく髪を撫でてくれた。 ほんっと綺麗だな、この人。 でも何だろう? 何処かで見た事ある様な? 「ん?」 どうやらその人もそう感じたらしい。 じぃーーー。顔に穴が開きそうな位見られる事数分。 「あっ!?」 驚きの表情をされた。 「君、櫻路の運命の人だよね?」 そう口にされ 「もしかして姫様?」 漸くその人があの時王子様の隣に居たお姫様だと気付いた。 王子様のお姫様は、てっきり華奢で可愛くて誰かが守ってあげなきゃ死んじゃいそうな位儚げな美少女だと思い込んでいた。 だが実際は有り得ない位綺麗だけれど、想像とは遥かに掛け離れた人だった。 白くて細いが程良く引き締まっていて、きちんと鍛えているのが分かる。 中性的な顔立ちだが、女性に見間違える事は無い。 まぁ、化粧をしたら絶世の美女になりそうな気もするけれど。 なんかすっごく良い匂いがする。 甘いけれど優しくて全てを包み込んでくれそうな安心する香り。 「ごめんね。君の王子様を好きになって」 泣きそうな顔で言われ 「いいえ、大丈夫です」 微笑んだ。 王子様に言われ、自分が恋に恋してるだけの人間だった事を知った。 好きになった人が運命の人だって教えて貰った。 「姫様は今幸せですか?」 ブハッ! ん?なんか咳き込んだ? 「ちょっ、ちょっと待って。さっきから姫様って、まさか俺の事!?違うよな?」 ん? 「え?いや、合ってますけど?王子様のお姫様だから姫様ですよね?間違ってますか?」 間違ってないよね? 「いや、その、君のその理屈で言ったらそうかもしれないけれど、俺姫って柄じゃないから」 そうなの? パチクリ瞬きをしていたら、桃李って呼んで?姫様は優しく笑みを浮かべながら名前を教えてくれた。 その後僕は姫様と沢山話して仲良くなり、恋愛の相談もした。 「運命の人は近くに居るねぇ。う~ん、実際そうなんじゃない?俺の場合もそうだったし。ずっとチカちゃんの側に居て、今迄もこれからも守ってくれて、一緒に居て楽しくて幸せな気持ちになれる人。近くに居ない?」 言われ真っ先に思い浮かべたのは征道の顔。 それに気付いたのか姫様は 「ね、居るでしょ?」 ふわり微笑んだ。 征道が運命の人ねぇ。 う~ん? 余りピンと来ないまま姫様と別れ帰宅した。 因みに姫様は本当に優しくて、僕を家迄送ってくれた。 L〇NEも教えてくれて、また悩み事が出来たら聞いてあげるし、気楽に連絡しておいでって言ってくれた。 お姉ちゃんが居たらこんな感じなのかな?って、姫様は男だからお兄ちゃんか。 ほんの少しの間だけとは言え元恋敵と仲良くなれて、嫌な気持ちが一瞬で幸せな気持ちに変わった。

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