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幼馴染
僕には幼馴染が居る。
菊川征道(きくかわ まさみち)。
父の会社の重役の子供で幼少期からずっと一緒に居る。
パッと見地味で大人しいのだが、よく見ると一重だが綺麗な瞳をしているし、鼻筋も通っている。
どんな時も僕を優先してくれるし、いつも僕の為に色々動いてくれる頼もしい友人だ。
周囲は征道をよく見ないし知ろうともしないから、なんであんな冴えない奴がいつも僕と一緒に居るんだとか友人に相応しくないとか口々に言う。
だが、よく見もせずに人を判断する人の方が人間としてどうかと思う。
人を見下す前に自分を見直して欲しい。
王子様に出会って人生初の発情期を迎えてから、僕は前より周囲から熱い目線を向けられる様になった。
自分では全く分からないが、甘いフェロモンが出る様になったらしい。
そのせいか、常にチカ様と周囲から声を掛けられる。
中には肉食獣の様な鋭く怖い目線もあり、僕は無意識に征道の影に隠れる事が増えた。
前迄は周囲の好意に甘えきっていたが、一度貰ったお菓子に変な薬が混入されていたのを知らず食してしまってからはプレゼントを貰うのを止め、甘えるのも止めた。
因みにその時は保健医がスグに駆け付けて解毒剤を飲ませて保健室で休ませてくれたから助かったけれど、もしあの時保健医が居なかったらどうなっていたのか。
分からないが、絶対何か嫌な事が起きていたに違いない。
怖すぎる。
余ったお菓子を調べたら薬物が媚薬だと分かったのだが、媚薬って何だろう?
征道に聞いたら、まだチカは知らなくて良いと言われた。
腑に落ちないが、征道が言うのだから間違っていないのだろう。
薬物混入以来軽く人間不信に陥った僕は周囲から距離を置き、征道とだけ連む様になった。
だが、周囲の視線と対応は変わらない。
常に熱い声と視線を向けられる。
そんなある日、僕は征道が他の人達から罵声を浴びせられているのを聞いた。
担任に呼ばれ職員室から教室に戻っている時だった。
何か怒鳴り声が聞こえ中庭に足を向けた。
其処で征道は沢山の人達から文句を言われていた。
お前が独占しているせいでチカ様に近付けない。触る事も話す事さえも出来ない。
チカ様に触れたい。抱きたい。
その為にはお前が邪魔だ。
沢山の罵声の中でそんな声が聞こえた。
違う。
征道が独占しているんじゃない。
僕が征道を独占しているんだ。
征道は何も悪くない。
なのになんで皆征道を悪く言うの?
授業開始前の鐘が鳴り、散り散りになっていく人達。
じっと見ていたら征道が気付いてくれて一緒に教室に戻った。
「ごめんなさい」
「なんでチカが謝るの?」
チカは何も悪くない。
征道はそう言ってくれたが、本当にそうなのだろうか。
僕のせいで周囲から嫌われた征道。
僕を守る為に側に居てくれている。
実際征道が居なかったら僕は生きていけない。
皆から何をされるか分からないし、何が起きるのかも知らない。
だけど、もし僕が負担になっているのなら距離を置かなくてはならない。
物凄く嫌だし怖いけれど、明日からは一人で頑張ってみよう。
「明日の朝は一人で学校に行くね?」
取り敢えず先ずは一人でも登下校出来る様になろう。
そしてそれが出来る様になったら次は休み時間とか色々。
自立しなきゃダメだよね。
何か言いたげな征道をスルーして無理矢理笑顔を作った。
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