106 / 124

恵果 53

ハラハラと雪が降りる中、帰った朝陽さんに傘でも渡せば良かったと思って苦笑いを零す。 あの人を、私だけの人にと心が叫んでいる気持ちを無視して、白湯でも飲んで火照った体に水分をと。 湯呑みに口を付けた時に人の気配を感じた。 朝陽さんが戻ったのかと心浮かせてその気配を探してしまう程にあの人を求めて居るのだろう。 けれど、私の部屋の前に立つ人は求めた人ではなかった。 「っ、も、戻ったのですか?」 先程帰した男が、不敵な笑みを浮かべ後ずさった私に詰め寄り、着物を大きく開かれた。 「っ......」 「はっ、この淫乱が!」 そう詰ると頬に強い衝撃を受けた。 先程の情事で奪われた体力は脆く、打たれるがままに倒れ込んだ。 その私に、馬乗りになった男が頬を再び打つ。 「あっ!」 「あんなガキに、恵果の良さなど解らんだろう?な?」 そう言って、先程まで熱に穿たれていた場所に指を押し込まれ嫌悪感で眉間に深くシワを刻んだ。 「ゆるゆるかよ、アイツより俺の方がでかいだろ?」 そう言いながら、私はこの男に朝陽さんの記憶を塗り替えられた。 もっと、朝陽さんに深く傷つく程に痕を残して貰えば良かった、なんて揺すられながら思う。 他の男でも私はこうやってだらしなく体を悦に浸らせる事が出来るのだと頬に涙が伝った。 男は、そのまま欲を私にぶつけ帰っていったが、私はしばらくの間その場所から動けずにいた。

ともだちにシェアしよう!