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朝陽 53
翌々日お寺を訪ねると恵果さんの様子が違っていた。
いつもしていないマスクを少し強引に外したら、赤黒い傷がある。明らかに叩かれて切れた口の端。
「これは…誰にされたんですか?」
「なんでもありません」
「何でもない訳、誰…まさか先日の方ですか?」
否定しないのが答えだ。
もう少しあのまま、ここに留まっていれば…
うかうかと帰った自分の能天気さを罵りたかった。僕の目の前で恥じらいもせずにいた男だ、舌打ちまでして帰って行った。
頬に手を沿え、そっと口元に触れると障ったらしく恵果さんが一瞬顔をしかめた。
その様子が僕の欲望を刺激する。
愛しさが募り静かに口の端にキスをした。
「今度、何かあったらすぐに僕に…」その言葉を恵果さんはさえぎった。
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