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見るたびにコロコロと変わる髪色に、智草はぼんやりと「今回は金髪か」と心の中でつぶやいた。
「私に用とは珍しいね。天変地異の前触れかな?それとも、牡丹と決別でもしたかい?」
「馬鹿なことを言わないで下さい」
「ふむ。なら何かな?」
湊という男は、随分と好き嫌いのはっきりした男だと智草は思う。敵は敵、味方は味方。その考えは、昔の智草には理解できても、今の智草には理解できないものになっていた。
「……例えば、ですが。貴方も半分は人間でしょう」
「半分人である、と言う表現は少し違うね。私は元々人とは異なる生き物だし、どちらかと言えば、人が混ざっていると言った方が正しい」
「……」
「それで、君は人に戻りたいと言うのかな?その不死の身で?残念だけれど、君は人に呪われている。人には戻れないよ」
高い天井から吊られたシャンデリアを見上げながら、湊が笑う。
「人間に戻ることを望むことは、君には不可能だよ」
居間と言うには広すぎるその空間が智草はあまり好きではなかった。シャンデリアも目に痛い。なにより、煌びやかなこの空間が苦手だった。
「………そうですか」
ぽつりと漏らした智草の落胆した声音に、豪奢なソファに腰掛けた湊が足を組みながら顎に手を当て、ため息を吐いた。
「命を共にしたい人間でもできたのかな?それとも、君が待ち焦がれた先生が生まれたか」
「……」
智草は無表情のまま、湊を見据える。その表情に、湊は呆れた様に笑うと、それはと言葉を続けた。
「それはあり得ない。牡丹も言っただろう?同じ人間は生まれない。と。転生はあくまでも魂の資質や、素養の塊だからね。人格や記憶は引き継がれない。例え君が同じだと思っても、同じではない「似ている」だけの、別人だよ」
やれやれと湊は呆れた様に智草を見つめ、またため息を吐いた。
「智草。君は人に呪われ、自分を呪い鬼になった。それは寂しさからだろう。君の愛する人間は、居ない。同じ人間は生まれない」
「……同じなんです。顔も、声も、瓜二つなんです。あの人はは、」
「……過ぎた欲は身を滅ぼすと、牡丹に言われなかった?」
「私は死ねない事が辛いのではありません。…あの人を待ち続けるのが、辛い」
浚ってしまいたいと、思った。
近くて、近すぎて、抱きしめた時に感じた確かな鼓動に生きているのだと、無茶苦茶に口付けてかき抱きたいと智草は思ってしまった。
「智草のそれは、今生きている彼を蔑ろにはしないかい?待ち焦がれた人に被せてしまって、結局今生きている彼を殺してしまう。魂を、無いのと認識するのと同じだよ」
「―――違います」
「違わないよ。…近衛さん、と言ったかな?その彼に待ち焦がれた人を重ねたら、近衛さんはどこへ行くのかな?君は、一人の人間を否定するつもりかい?」
―――智草、さん。
ざわりと、智草は背筋から這い上がるゆらゆらとした怒りに目を伏せた。
「………私は、間違っていますか?」
「待ち焦がれた人間ではなく、同じ魂の資質を持った別の人だと思えるなら、間違いでは無いと、私は思うよ」
「……………そう、ですね」
智草は目を伏せたまま、僅かに拳を握る。魂を求めていたのか、生まれ変わるはずのない、もう居ない人間を重ねて、今生きているその人を潰してしまう。
今生きている、近衛を殺したくないと。
この何百年の間繰り返して、確かにわかっていた。生まれ変わるのは魂で、その人自身ではない。けれど、交わした約束を果たさなければいけないとも、思って居た。約束に自分が縛られていることも、わかっていた。けれど、それでも智草自身ではもうどうしようもないのだ。
抱きしめて、口付けて、また、共に生きたいと願えたなら。
だけど、先生。
「(あなたに最期に言われた言葉を、私は思い出せない)」
大切な、何かを忘れている気がする。
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