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はっきりとした声音が、僕の言葉に答える。僕は目を白黒させながら、一瞬何を言われたのか理解ができなかった。
「ぇ、と…急に、どう、したんですか…?」
「あなたが好きです」
今度ははっきりと僕の目を見つめながら紡がれた言葉。僕はまた、え?と無意識に吐き出しながら智草さんを見つめ返した。
「僕は、あなたの…求める人じゃ、無いんですよ?」
「はい」
「なん、…なんで?」
「近衛さんが、好きです」
真っ直ぐ見つめてくる瞳や、言葉には嘘を感じない。でも、どうして。
「今いる、近衛さんをなくしたくありません」
「………………ぼく?」
思った以上に、素っ頓狂な声が出た。智草さんの瞳に映る僕は、とても間抜けな顔をしていて、また短くえ?とつぶやいた。だって、智草さんは、別の人が好きなんじゃ無いのかと。僕じゃ無い、僕のような人を、ずっと。
「…あなたです。四ノ宮、近衛さん」
いやにゆっくりとした動作に見えた。智草さんの両手が僕の頬を撫でながら、後ろ髪をくんっ、と引っ張る。そのまま、引き寄せられて、すぐ耳元で智草さんの声が聞こえた。
「――――たとえ魂が同じでも、顔も、声も同じでも、あなたは近衛さんです。近衛さんを、あなたを失うのは、嫌です」
囁くような言葉に、僕はただ混乱してしまった。確かに、僕は僕でしか無い。前世だといわれても、それは僕にとってはただの他人だ。それでも智草さんがあまりにも苦しそうだから。少しでも、話して楽になれるなら、と。
泣いて欲しくないと思った。
ひとりにしたくないとも、思った。
「あなただけが、私を見てくれました。逃げ出さずに、私と話して下さった」
興味が湧いたから。少し話しただけだったけれど、不思議な雰囲気で、また話したいなと、会いたいなと思ったから。会うのは三回目でも、そばにいたいなと思った。泣かせたくなくて、抱きしめたいと腕を伸ばした。
「………僕、は、わかりません。智草さんに、泣いて欲しくないんです。ひとりに、したくないんです。……生きたいなって、おもったんです」
生きる事にも、死ぬ事にももう選べる選択肢がなかった。いつからかわからないけど、ただ安穏と毎日を過ごして、きっと智草さんと出会わなければ、僕は昨日死んでいたはずで。
智草さんと会うことがなければ、生きたいなんてまた思えなかった。
「……だけど、僕が死んでしまえば、智草さんはまたひとりに、なってしまう、から。それが、嫌なんです。嫌だと思ってしまったんです」
絞り出した声が震える。
切れ切れに散りそうな声が、智草さんには届いたのか、ぎゅうっと抱きしめる力が強まる。
「……私と、生きてくださるなら、この命ごと、あなたに捧げます」
僕には、返す言葉がなくて、返せなくて、智草さんの背中に腕を回した。
離したくないと、願ってしまう。だけど、これ以上踏み込むのは、僕にも、智草さんにも酷でしかないはずだ。だって、智草さんは
「死ね、無いんじゃ」
「あります。たったひとつだけ」
僕の言葉に、智草さんがはっきりとした声で答える。
「私は、近衛さんとともに、いきたい」
ひとりに、なりたくは無いです。そう震える声音が続いて、僕は息を止めた。強かった腕の力が緩み、やわやわと体を離した智草さんは、僕の額に自分の額をこつりとあてて、瞼を伏せた。
「…貴方の命、私が貰い受けます」
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