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ツンデレラ⑦
とうとう訪れた3日後の夕方。
用事があると昼過ぎから出かけたリカちゃんを見送り、俺は庭に立っていた。周りにはリカちゃんが愛情込めて育てている野菜やハーブがある。あの変態野郎がどんな顔でこいつらを育てているのか、考えるだけでゾッとしてしまう。
そろそろ満開だと言っていたバラに囲まれ、目的の人物を見上げた。そいつはイメージ通りの真っ黒い服を着て、イメージとはかけ離れた金色の髪をした魔法使いの歩だ。
「最後にもう1度聞くけど、本当にいいのか?」
「いいつってんだろ。早くやれよ使えねぇヤツだな」
「おいツンデレラ。てめぇ偉そうにしてると今すぐドブネズミにすんぞ」
俺と歩は昔からの腐れ縁だ。どうして仲良くなったかは今は置いておくとして、思ったことを思った通りに口にできるぐらいには仲が良い。
呆れ顔を浮かべる歩を前に立つ俺の手元には、城から届いた例の招待状。もちろん、パーティーに出れるような服なんて持っていない俺は、仕方なく歩に頼んでそれなりの格好にしてもらうことにした。
リカちゃんが出かけているこのチャンスを、絶対に逃してはならない一心だった。
「はぁ……あいつのこと好きなくせに。変な反抗して、痛い目に遭うのはお前なんだからな」
その辺りにあった大きな石に腰掛け、やる気のない声で諭してくる歩。悪人面した魔法使いのくせに、正論をぶつけてくるのが気に入らない。
「うっせぇな!別に俺は、オカマの王子様とかどうでもいいんだよ」
「あぁ……アレか。お前の目当てって、城で出される飯だろ。確かにあれは美味かった」
「わかってるなら早くしてくれよ。このことがリカちゃんにバレたら、歩も怒られるんだからな」
「それがわかってるなら俺に頼るなよ……あの頭のイカれた継母、俺には特に容赦ねぇのに……」
まだぶつぶつと文句を言いながらも、歩は大きな指輪のついた指を空に向けた。
歩が魔法を使う時、特に何も道具を必要としない。前に魔法使いと言えば杖が必須なんじゃないかと訊ねたら、そんな時代遅れな物はダサくて嫌だと鼻で笑われた経験がある。
雲一つない青空に伸ばした歩の指が、くるくると回る。何の呪文を唱えることなくそれを3回転させると、どこからともなく真っ黄色のド派手な鳥が飛んできた。
「おい、タクミ。お前、このバカ咥えて白まで飛んで行け」
それは歩の使い魔である、タクミだ。タクミは歩の一言に、ひどく驚いたよう目を見開いた。
「ええ?!歩の魔法でドラゴンにしてくれんじゃないの?!」
「誰がするかよ。面倒くせぇ」
「マジか!!!俺、ドラゴンに変身するからってみんなに自慢してきたのに!」
「いいから早くしろよ。いつまでも騒いでると、養鶏所にぶっ込むぞ」
かちかちと嘴を鳴らし抗議しつつも、タクミが俺を見る。まさか本当に鳥に乗って城に行くとは信じられず、俺はタクミではなく歩に向かって口を開いた。
「なあ歩。普通こういう時って、馬車に乗って登場すんじゃねぇの?」
「あ?馬車なんて無駄に時間がかかって、無駄に渋滞するだけだろ。そんな非合理的なもんより、空から行った方が効率がいい」
「効率の問題じゃないと思う……けど」
とはいえ、ここで歩に逆らえば城に向かうことすらできない。
気分屋で面倒臭がりな魔法使いの機嫌が底辺に落ちる前に、なんとか着替えも済ませてもらい、タクミの背中に飛び乗……ろうとすると、真っ黄色のうるさい鳥がサッと身を翻した。
思わずついた尻もちが、地味に痛い。
「――っ!タクミ!!」
「だって背中に乗られたら、せっかくセットしたのが崩れるだろ!」
「じゃあどうやって城まで行くんだよ?!」
「それもそうか……ああ、ドラゴンにはなれないしパシリに使われるし、こんな役、引き受けるんじゃなかった……!」
大げさに嘆いたタクミは俺を背中に乗せる……ことはなく、その嘴に咥え飛び立つ。襟首を掴まれたような形は気に入らないけれど、騒いだり暴れたりしたら地面に真っ逆さまだ。
「はあ……。こんな登場の仕方で、ちゃんと入れてもらえんのかよ」
ただただ不安を抱え、城へと向かった。いや、正しくは、城へと運ばれた。
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