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ツンデレラ⑧

 キラキラと光る床。同じようにキラキラと光る壁。  そして、ギッラギラの目を剥き出しにするお姫様……の格好をした少年たち。 「すげぇな……これ」  城にはお触れ通り、若い男がこれでもかと飾り立てている。そんな中、小奇麗なブラウスを着ているだけの俺は完全に浮いていた。 「まぁ、王子にどう思われようが関係ないけど。さっさと目的を済ませて、リカちゃんが帰ってくる前に戻らないと……」  王子からの印象よりも、俺にとってはリカちゃんの機嫌の方が優先だ。絶品だと評判の料理を平らげた後は、何食わない顔で家にいなければいけない。  もし勝手に抜け出したことがリカちゃんにバレれば、俺は今夜は一睡もできないだろう。 「おぉ!!すっげぇ……」  広間に並べられたテーブルの上には、大きなケーキにアイス、豪華なパフェに憧れのチョコレートマウンテン。 どれも俺の大好きなものばかりだ。 「うっま……これ、こっそり持って帰ったらバレるかな」  スイーツを頬張りつつも、俺の脳裏によぎるのはリカちゃんに黙って出てきた罪悪感で。  別にリカちゃん以外に目を向けるつもりなんてないし、俺とリカちゃんは、れっきとしたは恋人……かどうかは、いまいちわからないけれど。それでも、なんとなく悪いことをしている気持ちは拭えない。  考えれば考えるほど、さっきまで美味しかったはずのケーキの味を感じなくなってしまう。 高級なチョコレートもフルーツも、俺の為だけに用意されたものではない。俺のことを考えて、俺を喜ばそうとして作ってくれたものじゃない。  そう思うと、握っていたフォークを自然と置いてしまった。まだまだ食べていないものがたくさんなのに。城に来て1時間も経っていないのに。  早くも帰りたいと思ってしまうなんて、俺はどうしちゃったんだろう。 「もう帰ろう……」  決めてからの行動は早く、そそくさと出口に向かって進む。そんな俺の腕を誰かが掴んだ。  視界に映る、レースと刺繍に溢れた袖。フリフリなんてレベルじゃなく、カーテンでも巻いてきたのかと思うほどのボリュームに、瞬きを繰り返すこと数回。  突然訪れた意味不明な物体が、これまた意味不明に揺れ、またまた意味不明な声を発する。 「やだぁ!!!可愛い子、発見っ!!」  それはもう、嬉しそうな声で。なかなかに澄んだ高い声で。  けれど、確かに男の声で。 「決めたわ!あたしこの子にしちゃうっ!これは運命の出会い、赤い糸があたしたちを巡り合わせたのよ!!」  意味不明なカーテン野郎が、そこにはいた。

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