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ツンデレラ⑨
「……もしかして。オカマ、の王子様?」
正確にはオカマで若い男が好きな変態王子様。確かリカちゃんが言っていたはずだ。
「あらぁ。オカマじゃなくて、今時はオネェって呼ぶのよ子猫ちゃんっ!迷子の迷子の子猫ちゃん!あなたのお名前何ですか?」
「こねこ?俺はツンデレラだけど……迷子でもないし、子猫でもないんだけど」
あの言い草通り、えらくテンションの高い、それはそれは激しくぶっ飛んだ王子様がやって来た。よく見るとオカマ王子の後ろには仏頂面で気難しそうな、巨大な執事の姿もある。
1人できゃっきゃと騒ぐ王子様と、呆気にとられる俺。そんな俺を見下ろした執事の眉がピクリと動いた。嫌そうで、面倒臭そうで、呆れていて、残念そうな……なんだか複雑な顔になった。
「おい桃。その子は駄目だ。その子以外にしろ」
「あら。豊、あんた人の恋路の邪魔なんてしたら馬に蹴られるわよ」
「安心しろ、馬は俺を蹴らないから。いやでも……お前は蹴られるで済まないと思うがな。それも馬よりもっと危険な生き物に」
深いため息を吐き、俺の腕にしがみつく王子を嗜める執事。そして、身体を引っ張られても意地でも俺の腕を離さないオカ……オネェの王子。
2人の攻防は続き、騒ぐ周りを無視して罵倒が始まる。執事がいい加減にしろと怒鳴れば、王子はうるさいと叫ぶ。
見た目通り力のある執事に引かれた腕は痛いし、見た目と違って力のある王子にしがみつかれた腹は苦しい。
「絶対にいやよっ!!嫌ったら嫌!この子はあたしのものなのっ!」
喚き散らす王子に強く抱きつかれ、限界に近づいた肩が抜けそうに痛む。
相手は王族なのだからと我慢していたけれど、さすがの痛みに文句を叫びそうになった、その時だった。
こつ、こつと靴底が床を打つ音。それは普段からよく聞いている、誰かさんの歩くリズムと似ていて。
ふんわりと辺りを包む甘い香り。まるでバニラアイスのような濃くて妖しい、誰かさんが好んで使う香水と似ていて。
「誰が誰のだって?」
決して大きくはないのに、低く凛として、身体の奥からゾクゾクする声。大声の向こうにあっても俺には確かに届く、誰かさんと同じ声で。
「せっかく誕生日を祝ってやろうと思ったのに、まさかこの俺に喧嘩売ってんの?」
声のした先には、オカマ王子とは対照的な姿があった。オカマ王子の真っ白なカーテンとは正反対の、黒一色の衣装を身に纏ったリカちゃんがいた。
いつも家では適当に結んでいる髪は綺麗に流されていて、その整い過ぎた顔がより際立つ。
ご自慢の長い手足に合うように作られた特注の衣装には、これでもかと装飾が施され、服の知識なんてない俺にも一目で高価だとわかった。
リカちゃんが首を傾げれば、自然と髪が揺れる。
キラッキラの壁も天井もシャンデリアも。そのどれよりも綺麗に輝く黒髪が揺れる。
「桃。まさか俺に喧嘩売って、無事に済むと思って……ないよな?」
垂れ目がちな目をさらに下げ、リカちゃんはにっこりと笑うけれど、その瞳は全く笑っていない。会場の熱気を一気に冷まし、絶対零度に凍りつかせる悪魔の笑みだ。
「リ、リリリ……リカ……久しぶり」
きっと王子がどもってしまったのも、この冷気にやられたに違いないのだと思う。
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