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兎丸慧はごめんなさいが言えない②
「お前は本当にバカだな……」
ついつい本音が零れちゃったのかと思ったけれど、どうやら言ったのはリカちゃんだったらしい。心底呆れた顔をして桃ちゃんを見下ろし、軽くため息をつく。
「婚活パーティーなんて俺が1番縁がなさそうなのに」
「だからこそよ。あんたなら自分から進んで行くことはなさそうだし、本当にもう、これが最初で最後ってことで記念に1発」
「記念に1発とか勘違いさせそうな上に下品な言葉を使うな。これだから躾のなってないオカマは……豊にきつく言っておかないと」
「ねぇどうしてそこで豊が出てきちゃうわけ?あんた、あたしを殺したいの?」
「お前の保護者は豊だろ。お前が変なことを言い出したならその責任は豊にもあって当然なんだから、俺は躊躇することなくお前を差し出す」
「ちょっとお願いしただけじゃない!!懇意にしてる社長さんに頼まれて、男性陣の人数が足りないから知り合い連れてきてくれないかって……むしろ人助けをすることを褒めてほしいぐらいだわ!!!」
どうして美馬さんに言うのかも、それを聞いた美馬さんが桃ちゃんをどうするのかも、重々承知している俺は黙っておくことにした。頭の中できちんと断ったリカちゃんを褒めつつ、まだ諦める様子のない桃ちゃんに視線を向ける。
バチッと合ってしまったことに後悔した。
「ウサギちゃぁぁぁんッ!ねぇお願い、後生だと思って侘しいオカマの一生に一度のお願いを聞いて頂戴」
「だからなんで慧君に言う」
「さっきも言ったでしょう。リカなら即答で断るってわかってるからこそ、チョロ……じゃなくて話のわかりそうな方に言うのよ」
待って。今確実にチョロいって言われた。捨てられた演技をしたオカマ幼女にすらチョロいと思われていることにショックが隠せず、不意に沸いたイライラはリカちゃんに向かう。
なんでって、それが獅子原理佳だから。
「リカちゃん」
俺の苛立ち混じりの声に気づいたリカちゃんが苦笑いを浮かべて俺の頭を撫でた。その行動ですらイラッとさせるんだから、お前はもっと俺に気を遣うべきだ。
「大丈夫、慧君を不安にさせるようなことはしないから」
――は?
じゃあなに。俺が不安にならなきゃお前は行くのかよ。ここで俺が「不安になるわけないだろ」って一言でも言えば、お前は友達の願いだから仕方ないなぁって笑って行くわけ。婚活パーティーなんてどんなものか俺は知らないし興味もないし、この先も行くことはないけれど、お前は喜んで行っちゃうわけ?
上等だクソが。お前が俺に原因を押し付けるなら、俺はそれを全力で跳ね返す。婚活パーティーでも何でも、何なら結婚式本番にでも行ってしまえばいい。そして止めなかった俺に申し訳なさを感じ、許してほしい、自分が悪かったと泣いて詫びやがれ。その時に俺が許すかどうかの保証はないけどな。
「リカちゃんさ、なんか俺が不安になるんじゃないかってバカみたいな勘違いしてるけど。行きたきゃ行けばいいんじゃねぇの。別に俺、行くなとか一言も言ってないんだけど」
言ったそばからリカちゃんの視線が鋭くなったのはわかったけれど、気づかないフリで続ける。
「お前はちょっと自意識過剰すぎ。桃ちゃんだって人数合わせって言ってるのに俺が嫌に思うとか……そもそも、相手の女の人もお前に目をつけるとは限んないじゃん。何を自分はモテるみたいな、好かれて当然みたいな発言しちゃってるわけ」
「慧君それ本気で言ってんの」
「たかが人数合わせの、冷やかしみたいなもんだろ。いちいち大事にするほど俺子供じゃないし。俺だって付き合いとかでラインのID交換したり、女の子の紹介とかもあるし」
「…………へぇ」
十数年ほど生きてきて、ここまで恐ろしい「へぇ」を俺は経験したことがない。そう思っちゃうぐらいリカちゃんの声は低くて、感情どこに捨ててきたんだって問いかけてしまいそうになった。それは桃ちゃんも同じだったようで、オロオロしながら俺とリカちゃんを交互に見てる。
「慧君がそう言うなら、こんな救いようのないバカでも桃は一応友人なわけだし?俺がそれを助けてやりたいって思うのは、普通の感情だろうしなぁ」
ほら、やっぱり。でも、なんでだろう。予想通りの展開を迎えたのにちっとも嬉しくない。俺だってリカちゃんが何て言うのか、どう考えているのかわかるんだぞって、嘘でも笑えない。
確かにイライラしたし俺の所為にするなって思ったし、本当はリカちゃんもそういうことに興味あるんじゃないかって心配もしたけれど。でも俺は、俺がどうこうじゃなくて、俺はただリカちゃんに……。
「なぁんて言うとでも思った?俺はね慧君、慧君が不安になるようなことは当然するつもりもないけど、それ以上に俺自身がしたくないだけ。自分がされて嫌なことは人にしない。それが大切な人なら尚更に」
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