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迷惑な友人①
リカと桃と美馬の日常
リカ視点でのお話です
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「それでねぇ!!そいつ何て言ったと思う?おネェだからソッチの方も経験積んでると思ってた……期待して損した。なんて言うのよ?!あたしは底なしの純粋さと、涙が出るほどの健気さがウリのおネェなんだから!」
グラスを片手に、もう何度目かもわからない愚痴を桃から聞かされる。
酒に弱い俺とは違い、桃は恐ろしく酒に強い。だから酔ってなどいないはずなのに、桃は完全に据わった目をして、こちらを睨んでいた。
「なんで男って、こうも思いやりがないのかしら!」
「お前も男だろうが」
「あたしの心は乙女よ。神様が容れ物を間違っただけ」
桃の返しに、物は言いようだな……と思った。前向きと言えばそれまでだが、ただの屁理屈にしか聞こえないのはなぜだろうか。きっと、酔っぱらいの戯言だからだ。
大熊桃太郎はお節介で思い込みが激しい。それから口煩く、リアクションも激しい。とにかく、桃は全てにおいて『激しい』のだ。
日頃から慧の仕草に悶える度、容赦なく壁に頭を打ち付ける。俺や慧がどれほど止めようと構わず、ガンガンと連打する。そのおかげで、俺のお隣さんへの愛想は倍増した。
今では挨拶だけでなく、日常会話まで交わす仲だ。
一体、いつから桃はこうなった?と考えて、そういや会った時には既に、桃は桃だったような気がする。だとしたら大熊桃太郎は、高校生の時から変わっていない。
それはそれで問題ではないだろうか……。
「リカ!ちょっと聞いてる?」
過去の回想に呆けていた俺を叱咤する桃の声。どうやら愚痴はまだ続いていたらしく、その大半を聞き流していたことを責められているようだ。
そんなこと知ったことか……と、言いたいのを堪え、愛想笑いを浮かべる。
「あ、あぁ、まぁ。それよりお前明日も仕事だろ?この辺りで止めて、今日はもう帰れよ」
連休真っ只中の自分と違い、桃は明日も仕事がある。それも俺が想像できないような大仕事が。
それなのに面倒臭いオカマ野郎は、左右に首を大きく振った。
「イヤよ。あたし、今日はここで寝る!」
「は?無理」
「リカのベッドで一緒に寝るの!これ決定事項だから。拒否したら、契約不履行で訴えてやるからね!!」
いつ、どこでそんな契約をしたのだろうか。桃の言っている内容こそ詐欺のようなものだが、酒に酔った相手に常識が通じるわけもない。
諦めた俺が手に取るのは、自分のスマホだ。桃に気づかれないよう、机の影に隠れて指を動かす。メッセージの送信先は、昔から『あいつ』以外にはありえない。
「別にリカなんかに手は出さないわよ。安心なさい」
「俺が出させないから。お前じゃ勃つもんも勃たない」
「失礼ね!コレでもそこそこ人気なんだから!」
その言葉通り、桃は確かに美形だと思う。
柔らかそうな髪に、大きな瞳に、手入れの行き届いた肌。身長だって男の平均はあるのだから、性別問わず人気があるのは俺も重々知っている……けれど、だ。
「俺の恋人がどれだけ可愛いと思ってんの?」
例え桃が類まれなる美貌を持っていたとしても、俺の慧君に敵うことはない。
「桃が全財産かけて整形したとしても、慧君に勝てると思うなよ」
「現役高校生を引き合いに出すなんて、卑怯よ!!否定できないじゃない!」
親指の爪を噛み、わざとらしく悔しがる桃の表情はとても優しい。その理由は、桃も慧を気に入っていて、可愛がってるからだろう。
自分の恋人が自分の友人と親しくなる。それに嫉妬するほど子供でないし、ただでさえ人に言えない関係なのだから、桃には慧の味方でいてほしいと思う。
それを知ってか知らずか、不平不満だらけだった桃の顔が和らいだ。吊り上げていた眉を垂れ、尖らせていた唇は笑みの形を描いている。
「ねぇリカ。ウサギちゃんは元気かしら?」
「元気だけど元気じゃないかもな。課題終わるまでは、絶対に会わないって言ってあるから」
「あんた鬼ね。どうせ先に滅入るのは自分のくせに」
「今まで楽してきたんだから、自業自得だろ。甘やかしていいところと駄目なところ、それを見極めてやらなきゃな」
「やだ先生みたい!」
「だから、先生なんだってば……」
のんびりとしたペースで続く会話に、次第に桃が目を瞬かせる。開いている時間よりも、閉じている時間の方が多い様子は、眠気を感じているのだろう。
それでもグラスを離さないところが桃らしくて、無意識に笑ってしまう。
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