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迷惑な友人②

 大人になり、立場のある仕事につき、周りから頼られている桃。その桃が弱みを見せるのは、限られた人物……それは俺と、あいつだけだ。 「リカ、あたしリカのこと好きよ。すっごく」 「はいはい。桃は俺に一目惚れしたんだもんな」 「過去の話を出すなんて、マナー違反だわ」 「あー、それは悪かったな……って、遅いなあいつ」  連絡を送って早30分は経っている。すぐに向かうと返事が来ていたはずが、渋滞にでも巻き込まれたのだろうか。  今度は電話でもしようかと、脇に放っていたスマホを手に取る。履歴の中からあいつの名前を探そうとしたところで、桃が肩越しに覗きこんできた。 「あいつって、誰のことよ?あんた、まさか……」  あいつの正体に予想がついた桃の顔が青ざめ、吊り上がりがちな目が大きく見開いた。  それと同時に俺たちの背後からインターホンの音が鳴る。  あらかじめ桃の隙をついて玄関の鍵を開けていたのが功を奏し、とうとう『あいつ』が現れた。 「どこ行った?!この腐れオカマ野郎!」  廊下からリビングへと続く扉を開けたと同時に、叫びながら勢いよく入ってくる大男。  もう夜も更けた時間だというのに、遠慮のない怒声に俺が思ったのは「あぁ、またお隣さんに愛想振り撒かなきゃ……」という諦めだ。 「ゆゆゆゆゆ豊?!」 「このオカマ!毎回毎回リカのところに逃げんじゃねぇよ!狙ってた男に振られたぐらいで情けない!」 「情けなっ、だって!!それほど愛してたもの!」 「あぁ?!その台詞なら、先週にも聞いた!お前の愛は軽すぎる!!」  豊が右手に持っていた袋を桃の顔面に命中させる。大男から放たれたそれは、そのままの勢いで桃の顔に激突した。  無抵抗のまま後ろへと倒れた桃を、豊は慣れたように担ぎ上げる。  この一連の流れを、俺は何度も目にしてきた。けれど、容赦なく人の顔面に物を投げつける様は、どれだけ見ても慣れない。 「嫌よ!あたしまだ帰らない!!」  豊に担がれつつも逃げようともがく、大熊桃太郎と。 「うるせぇ黙れ!!悪いなリカ、それは土産だ。好きにしてくれ」  それを一喝する、声の大きさを考えない美馬豊と。 「……あ、ああ。わざわざ悪いな」  全てを諦めた俺がリビングに立つ。  人の土産を投げつける豊も大概だと思うのだが、ここは黙っておくべきだ。俺まで豊の機嫌を損ねたら、今度こそお隣さんから苦情を貰いかねない。   「今日はリカと寝るの!!あたし、リカになら抱かれてもいいんだから!」 「いや、俺は桃を抱かないから。こっちから断る」 「ほら見ろ。誰がお前みたいな、旬の過ぎたオカマを抱くか」 「豊やめて!おネェに年齢の事は言わないで!リカ助けてお願いっ!!!」  俺に向かって伸ばすその手に、ソファに置いたままだった桃の鞄を握らせる。そして満面の笑みで「豊と仲良くしろよ」と諭せば、桃の表情が絶望のそれに変わった。 「リカの悪魔!!薄情者!!未成年淫行で訴えてやる!!」  豊に連れられ出て行く桃を、リビングから見送る。玄関を出てまで聞こえる桃の叫び声に、俺は呆れるしかできない。それから、未成年淫行の言葉を、ご近所さんが信じないよう祈るしかない。  そして、桃が出て行って数十秒後。  玄関の鍵を閉めようと足を運べば、目の前の扉がそっと開いた。そこから現れたのは、会わないと宣言したばかりのウサギだ。 「リカちゃん」 「ああ、悪い、うるさかったか?」  きっと桃の叫び声を聞きつけ、やって来たのだろう。部屋着のままのラフな格好で廊下に立ち、扉から顔を覗かせた慧がこちらを睨む。  その口元が、にゅ、と尖った。 「桃ちゃんだけ、ずるい」 「ずるい?」 「……………俺だって、リカちゃんといたいのに」 この可愛い生き物は何なのだろうか。つい甘やかし過ぎるから、と自分を律したはずなのに、ウサギの一言で決意が揺らぐ。今すぐにでも家に上げ、目一杯可愛がってやりたいと思ってしまう。  そして、そんな俺の本音は行動に出てしまっていたらしい。気づけば身体を廊下の端に寄せ、ウサギが通りやすいよう道を開けているではないか。  我ながら単純だと呆れつつ、玄関先でこちらを見上げるウサギを手招く。 「やっばぁ……今日だけ特別な。おいで、慧君」  友人を売ってしまう悪魔な俺でも、年下の可愛い恋人には敵わない。なぜなら、兎丸慧とは悪魔をも魅了する、俺の特別で俺の唯一だからだ。        *迷惑な友人*END

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