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間違いだらけの一目惚れ①

 リカ、桃、豊、星一(ウサギ兄) が高校生の時のお話です。  美馬豊視点となっております。  *  あれは、高校生になって1ヶ月が過ぎた頃。俺の……認めたくはないが……悲しいことに幼稚園から付き合いのある幼馴染が、こう言った。 「豊!あたし王子様と出会ったの!!」  高校初めてのテストに向け、俺の部屋で勉強していた時のことだった。家に来た瞬間から妙にそわそわしていた桃は、勉強を始めて1時間もしない内にペンを置き、口を開いたのだ。 「………は?お前、とうとう夢と現実の違いまで区別つかなくなったのか?」  日頃から変な事ばかり言うやつだったけれど、あの時の言葉は今までのトップ3に入ると思う。告げるタイミングも、告げた中身も理解不能な台詞を、どうして自信満々に言えたのだろうか。  俺こと美馬豊と大熊桃太郎は、幼稚園、小学校、中学校といつも一緒だった。桃は男女問わず友達が多く、その優しくて明るい性格からクラスで1番の人気者だった。  その上、頭もすこぶる良くて、きっと桃は学区一優秀な高校に行くんだろうな……と思っていたのに、選んだのは何故か2つもランクを落とした学校。  しかも男子校で、しかもしかも俺と同じところ。  なんでだろうと考え、また一緒だと思っていた春休み最終日。ここで『桃の変な宣言トップ3』の1位が、告げられることとなる。  今まで真っ黒だった髪を淡い茶色に染め、高校デビューを目論んだ桃が言ったのは「あたし明日からは愛に生きるの!」だったのだ。  玄関先で、扉も閉まっていない状況で、突然の宣言。寝起きのスウェット姿だった俺は、首を傾げて数秒、まず初めに浮かんだ疑問を問いかけた。 「………なんでいきなりオカマ?」 「おネェよ!って、つっこむポイントそこなの?!」  寧ろ、そこが1番の問題だと思う。なぜならば、目の前に座る幼馴染は、昨日までは普通に喋っていたのだ。  普通に男の口調で「入学式だりぃー。なんで俺が新入生代表じゃねぇんだよ」とぼやいていたはず。それが急に一人称が『あたし』に変わり、語尾が「だわ」に変わった。  もう1度言おう、これが1番の問題である。  その変貌の理由は全く興味ないのだけれど、聞いてほしいタイプの幼馴染みは勝手に口を開く。こちらが訊ねもしないことを、勝手に語り始める。 「気付いたの!!あたし、きっと神様に意地悪されたんだわ!だから今まで、違和感を感じて生きてきたのよ」 「……はぁ」 「でもいいの。負けない。あたし運命に抗ってみせるわ!心は乙女身体は美少年って素敵でしょう?」 「……ほぉ」  これはまた面倒くさい事になったな……と思ったのが1ヶ月前。  ぜひともクラスは端と端に別れ、なんなら校舎も別であれと願ったのが1ヶ月前。    そして今、面倒なやつが更に『面倒すぎるやつ』にパワーアップし、目の前にいる。

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