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間違いだらけの一目惚れ②

 あろうことか、俺と桃は同じクラスになってしまった。クラス発表を見るその瞬間まで、何度も何度も願ったのに、1年2組に2人の名前を見つけた時は、崩れ落ちるかと思ったぐらいだ。   「それで、どれだよ」  朝、例の如く一緒に登校し、一緒の教室に入り、こうして桃に巻き込まれる。一体何をしているかと言うと、桃が一目ぼれしたという生徒を盗み見る為だ。  ちなみに場所は教卓の裏で、教卓と言えば教室のド真ん前にあって、隠れるべき場所ではない。それなのに桃は、机の影から教室内を覗きこみ、前方を指さす。     「ほら、あれあれ!あの、黒髪の!!」 「あれか……って、なんで俺ら教卓に隠れてんの?ここ、普通に目立つだろ」 「だって直視したら、あたし溶けちゃうもの!オーラで溶かされちゃう」  それは何のオーラなのだ、とか。そのオーラというやつは高温すぎるだとか。  いっそのこと、もう溶けて消え去ってしまえと心の中で罵倒し、俺は桃が指さすその生徒を見た。  その生徒の名前は、獅子原 理佳。登校してきたばかりなのか、自分の席に荷物を置き、ちょうど椅子に座ったところだ。  真っ黒で緩いウェーブのかかった髪に、スラリと伸びた身長。友人と挨拶を交わす姿は、まぁイケメンで違いないだろう。そう、イケメン……つまり、男だ。  それもそのはず、この学校は男子校なのだから、男以外がいるわけがない。つまり、桃が一目惚れした相手は、自分と同じ男だった。  少し意地の悪そうな薄い唇に、高校生とは思えない色気の溢れる柔らかい瞳。教科書を鞄から出す指は長く、手フェチではない俺が見ても目を惹かれるものがある。  しかし男。何度も言うが、獅子原は男だ。 「桃。お前、面食いだな」  性別のことには触れず、とりあえずの感想を述べる。すると桃は、形の良い額を教卓の側面にぶつけ、顔を突っ伏した。   「やっぱり?やっぱりそう思うー?やぁん……リカ王子、素敵。」 「リカ王子?」 「理佳って漢字だからリカって呼ばれてるのよ。あたしの王子様なんだからリカ王子よ!」 「……へぇ、ああ……そう」  正直、とてつもなく寒いと思う。同い年の男を、男が王子と呼ぶなんて。しかも顔を赤らめるなんて。本音を言えば、今すぐ幼馴染をやめたい。本当に、今すぐに。  けれど性別のことを触れる気になれないのも、その呼称にツッコミを入れないのも、桃の顔が『恋愛』をしているからだ。冗談ではなく、同じ男に対して好意を抱いていることを、顕著に表しているから。  大熊桃太郎という男は、幼馴染の贔屓目なしに見ても、良いやつだと思う。若干、頭の中身に問題はあるものの、家柄も良く、本人の性格も悪くない。  実は影の努力家で、けれどそれを誇示したりしない。みんなに隠れてしている苦労を、声に出して告げたりしない。  だから自然と桃の周りには人が集まり、みんなが桃を慕うのだろう。そんな桃が心から好きになった相手なら、男であろうが女であろうが、俺は黙って見守るしかない。    しかし……だ。 「あいつ、性格悪そうだな」  鼻息の荒い桃の顔面を教卓に押し付け、俺はリカ王子とやらを見る。誰に話しかけられても軽く躱し、時々冷めた目をする横顔。自分の価値を知っている横顔。  それが一変し、子供っぽく歪んだ。  獅子原の隣には、さっきまではいなかった生徒が立っていた。

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