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間違いだらけの一目惚れ③
「桃。いつの間にか1人増えてる」
未だ鼻息の荒い桃にそう言うと、獅子原の姿を確認した桃が小さく頷く。そして、さも当然のように隣に立つ生徒の名前を教えてくれた。
「あれは兎丸星一。新入生代表をした子よ」
「代表ってことは、桃が負けたやつか。へぇ……あいつ、お前より頭も顔も良いんだな」
「その言い方嫌だわ。でも兎丸君っていい子らしいから、負けも悔しくない」
獅子原の隣に立つ兎丸は、なるほど、人の良さそうな顔をしていた。いわゆる優等生って感じの、無害そうな外見だった。
すると、不意にその兎丸がこちらを向き薄く笑う。それは優等生らしくない含み笑いで、兎丸には似合わないような、けれど妙にしっくりくる笑い方だ。
その兎丸が隣に立つ獅子原に合図を送り、そのまま2人揃ってこちらへ向かって来る。
「桃、どうやら気づかれたらしい」
「えぇ?!やだ、嫌よ!今朝からニキビができてるのに!」
「……それ、どうでもいい」
「豊が無駄に大きいから!だから気づかれたんでしょう?!」
桃が叫んでいる間も、2人はこちらへ向かってくる。大して広くもない教室で、たどり着くのは時間の問題だ。
思った通り、数秒でこちらまで来た兎丸と獅子原が、屈んで教卓に隠れている俺たちの目の前に仁王立ちをする。
そして、真っ先に口を開いたのは被害者である獅子原ではなく、兎丸星一だった。
「君、リカのこと見過ぎ。ちなみに話し声も聞こえすぎ。 言っておくけど、こいつ良いのは見た目だけで、王子なんてタイプじゃないよ」
そう言った兎丸は獅子原を指差しケラケラと笑う。それに対して獅子原は、至極面倒くさそうに、深いため息をついただけだった。本当に、心の底からどうでも良さそうな態度だ。
「そんな見るなら、直接話しかければいいのに。いくらリカでも、初対面で無視はしないから」
「え!!無理無理無理!そんなの無理よ!」
なぜか兎丸に対して答える桃に、ようやく獅子原が口を開く。僅かにとっていた距離を詰め、桃へと一歩近寄った。
「俺って、そんなに話しかけにくい?睨んでるつもりないんだけど、あんまり目を合わしてもらえない」
拗ねたように言う獅子原の姿に、俺は少し驚いた。
恵まれた外見から、きっと今まで持て囃され、調子に乗っていると思ってたのに。それなのに、目の前の獅子原は、それはそれは普通の男だったのだ。
「うちのリカちゃん、友達少ないから、仲良くしてやってよ。君、友達多いんでしょ?」
「うちのって言うな。星一の物になったつもりはない」
わざとふざけて兎丸が言うと、獅子原は嫌そうに顔を顰める。高校生らしい2人のふざけ合いに、緊張していたらしい桃から、力が抜ける様を傍で感じた。
「もっ、もちろん!あたしでよければ!!」
「だって。良かったな、リカ」
「俺は別に頼んでないんだけど」
兎丸と桃から顔をそらした獅子原が、必然的に残された俺を見る。そしてその顔が困ったかのように緩んだ。
初めて獅子原と会話する桃はとても嬉しそうで、俺は幼馴染の恋を応援してやりたいと思った。変な女に引っかかるよりは、例え獅子原が男でも、幾分とマシに思えた。
おそらく獅子原は、桃以外にもアプローチを受けているのだろう。人から好意を寄せられうことに、慣れているのだろう。
幼馴染の恋は前途多難だが、桃自身が諦めないうちは、俺も密かに手助けしてやろうと思った…………その一週間後。
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