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バカップルの兆し④
素知らぬ顔で作業に戻ってしまったリカちゃんの背中を見ながら、沸々と感情が湧き出てくる。それは嫌なものではなく、好意的な、何というか『嬉しい』が1番近い表現だろう。
だって、あのリカちゃんがデレたから!!
いつも意地悪で俺様で、キザなくせに容赦ないリカちゃんが無意識に俺を褒めたから!!
もうこれは、緩む頬をどうにかしろと言う方が無理だ。
「……へへっ」
「何を笑ってんだよ。いいから早く片付けろ、バカウサギ」
「リカちゃんも、油断しちゃう時ってあるんだな。ふふっ、いいこと知れた」
ヘラヘラと緩みっぱなしの頬。締まりのない顔をする俺を見て、リカちゃんが目を眇める。
俺を凝視すること数秒、何かを思いついたらしいリカちゃんが妖しく笑った。
……妖しく?
…………笑った?
「ねぇ、慧君」
やけに甘い声で名前を呼ばれたかと思えば、雑誌をまとめようとしていた紐を手に、なぜかにじり寄ってくる。その顔は綺麗すぎるほどの笑顔で、エロ本に載っていたリカ先生とは雲泥の差だ。
あのリカ先生は、こんなに清々しく爽やかに、甘ったるい顔で笑ったりしない。もっとエッチで……例えば舌を出していたり、指を銜えていたり……だなんて、考えていたのが悪い。
気づけば俺はフローリングに押し倒され、目の前には天井が広がる。今朝、リカちゃん先生の方が掃除したライトが煌々と照り、それを遮るようにリカちゃん先生本人が覆いかぶさってきた。
「え?あれ?なんで」
いつの間に俺は押し倒されたのか、どうして押し倒されたのか。
なぜリカちゃんの手が服の中に入ってきているのか。
考えるよりも察しろ、と言わんばかりに微笑んだリカちゃんが、耳元で囁く。
「実物のリカちゃんは夜だけじゃなくて、昼も特別授業できるけど?」
「……は?」
「慧君が求めてくれるなら、朝も昼も夜も、学校でも家でも。好きな時に好きなだけ、好き放題してあげる。ちなみに、この場合の好き放題は、俺の好き放題って意味だからね」
「んなっ!!!」
昼からスイッチが入ってしまった実物のリカちゃん先生は、意地悪で偉そうでいじめっ子だ。性格は悪いし口も悪いし、手は早いし常識がない。
雑誌のリカ先生のように甘えたりしない。良い子だって簡単に褒めてくれたりしない。
けれど。
「もちろん俺は、慧君限定でしか特別授業しないけどね。やっばぁ……この時間からなら、5回は余裕でできるね」
俺だけにそれを見せてくれるリカちゃんが、今日も大好きだ。
*バカップルの兆し*END
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