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2人で1人分①

 リカウサの日常。兎丸慧視点です。   *  日曜日の昼下がり。  例の如く昼前に起き、少し怠い身体を叱咤して支度を済ませる。車で少し離れた場所にある美味しいと評判のカフェで昼飯を食べた俺たちは、映画を観るべく映画館に来ていた。  映画館の壁に貼られた大きなポスター。今上映中の映画の紹介と宣伝を兼ねて、大々的に掲示されたそれ。  何枚かのうちの2つの前で立ち止まった俺とリカちゃんは、お互いに向き合っている。 「絶対に嫌。そんなの観るぐらいなら、俺はゲームすることを選ぶ」 「いやいや慧君。映画とゲームを比べるのは間違ってるし、そもそも慧君に拒否権があるとでも?」 「拒否権ぐらい俺にもあるわ。あり過ぎるぐらいだ」 「ちなみに拒否権って漢字で書けるか?ん?」  完全に俺を小馬鹿にするリカちゃんが指差す先には、数年前に話題になった映画の続編のポスターが貼ってある。子供の亡霊が次々と幸せな家庭を壊していく……という、いわゆるホラー映画だ。  俺がこの世で嫌いなものは、面倒なこと、意味のわからない根性論、虫。それから説明のつかない現象や物体。つまり、お化けとかホラー現象とか、そういうもの。  自分から進んで言ったことはないけれど、リカちゃんは俺のことを俺以上に知っているから、もちろん気づいている。  俺がお化けが苦手なことをわかっていて、わざとホラー映画を観ようと言っている。にやにやと笑いながら、俺が「怖いから嫌だ」と言うのを待っているに違いない。  一体お前は何歳だ、と怒りたくなるけれど、ここで俺が怒るのはリカちゃんの計画通りな気がする。 「とにかく、俺はこれが観たい。観たくて観たくて、夢にも出てきたぐらいだからな!」  とっさに近くに貼ってあったポスターを指差すと、そこには想像もしていない物が貼ってあった。まさかホラー映画のそれの横に、こんなものがあるとは誰も思わないに決まっている。  俺が指差した先をリカちゃんが辿り、微かに目を眇める。にやにや笑いが呆れ顔に変わって、嫌味なほどに長い腕を組んで首を傾げた。 「桃太郎と愉快な仲間たち……。慧君、これ子供向けの映画なんだけど、本気で言ってる?」 「……っ、た、たまには癒しも必要なんだよ!それに、子供向けの映画を大人が観ちゃ駄目な法律はない!」 「癒し?今日も昼前まで優雅に寝てたお前が、何の癒しを求めてるって?」  リカちゃんが指摘する通り、本当は観たいとも思っていないし、夢にも出てきたりはしていない。けれど、言ってしまった手前もう後戻りは出来なくて、俺はこの映画を最後まで支持しなければいけないのだ。  嘘だけど仕方なく頷いた俺に、リカちゃんが白けた顔を向ける。完全に嘘だと気づいていて、ただの苦し紛れの言い訳だとわかっていて、そして『くだらない』と言わんばかりの顔。  ホラーは苦手だと言えない、プライドの高い俺に向けた顔ではっきりと言う。 「くだらない」  その言葉に、俺の中の本能が牙を剥いた。  人よりも短く、人よりも爆発しやすい怒気が破裂する音が、頭の中に響く。

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