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2人で1人分②
「そうかよ!俺は1人でこっち観るから、リカちゃんも自分の観たい方を観れば良いだろ!」
怒鳴り声を上げた俺を、周囲にいた数人が何事かと見る。誰かに知られてはいけない関係なのに注目を浴びてしまい焦るけれど、よく考えればここは地元からかなり離れた場所だ。
きっと、知り合いなんて誰もいない。それなのに不躾に感じる視線の意味は、俺たちの関係が不思議だからだと思う。
友達ではないことは確かで、良くて先輩と後輩……いや、いくらリカちゃんが童顔とはいえ、10歳も年齢が離れていればそれも怪しい。
良くて『兄弟』だろうか……。それは俺にとっては全く嬉しくないけれど、変に見られることに比べれば我慢できる。
だなんて、どうでもいいことを考えてしまうのは、怒ったはいいけれど続きが思いつかないからだ。どうしようと内心で焦る俺をよそに、リカちゃんは平然とした態度で対峙してきやがる。
「慧君。一緒に来たのに別のを観るって、全くもって意味がわからないんだけど」
「観るて言ったら観るんだよ!俺は!1人で!自分の観たいものを観る!!!」
リカちゃんの足をひと蹴りして、足音荒くカウンターに向かう。そこで大人1人分のチケットを買った俺は、背後に立つ偉そうな男に向かって中指を立てた。
額を押さえ、ため息を吐くリカちゃんを一瞥し入り込んだシアターの中は……。
『桃太郎と愉快な仲間たち』そんなふざけたタイトルのくせに、席はほぼ満席。空いてるのは俺の隣と前の方の数席だけだ。
大半を占める子供達の、映画を待ちわびる声。それがあちこちで聞こえ、明らかに場違いな俺は頭を抱える。
一体、俺は何をしているのだろうか……。
男同士に加え、教師と生徒という関係の俺たちが2人きりでいられる場所なんて限られている。
いつも家ばかりで、俺は別にそれでもいいけれど……たまには外に出ようか、と声をかけてくれたのに。ここに来るまでの運転も全てリカちゃんがして、俺は隣で居眠りしていたのに。
どうして、わざわざ遠出までして喧嘩になるのか。それは俺が意地を張ったからと、リカちゃんの性格が悪いからだけど。でも、そんなものはいつものことで、リカちゃんが俺をからかうのは日常茶飯事だ。
別に特別なことは何もなく、それなのに妙に苛々して。女々しいと思いつつも逃げるように……正真正銘、逃げ込んだ先は子供だらけで場違いが半端ない。
1時間半の上映が終わった後、どんな顔をして合流すれば良いのかがわからない。どうせまた嫌味な顔で「楽しかった?お子さま慧君」と言われるに決まっている。
憂鬱な気分のまま上映開始のブザーが鳴り、俺は諦めながらも全く興味のない映像が流れるスクリーンを眺めた。そして少しした頃……。
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