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10年後の君へ⑥
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それからの数日は、可能な限り自然体で過ごしたつもりだ。時々、無性に恐怖を覚えることはあったけれど、そんな時はウサギに触れてごまかした。
頭では割り切ったつもりでも、身体も心も未練がましく求める。毎晩のように求めても足りず、次から次へと要求する俺にウサギが怒るのも無理はないだろう。
そうして迎えた残り2日。俺に残されたのは、明日と当日の数時間しかない。
「今日デートしよっか」
軽めの朝食を食べながらそう言えば、ウサギは少し驚いた後に勢いよく顔を逸らす。けれど見えているその耳が真っ赤で、照れ隠しなのはバレバレだった。
「慧君、俺とデートするのは嫌?」
「嫌……じゃ、ないけど。身体が」
「嫌じゃないなら決まり。大丈夫、軽く散歩するぐらいだし、辛かったらお姫様抱っこで運んであげるから」
「大丈夫じゃないのは、リカちゃんの頭の方だと思う」
怠い、面倒くさいとぼやくウサギを促し、そそくさと支度を済ませて家を出る。あまり散歩日和とは思えない曇天は、まるで俺の心を映し出したようだった。
気分で晴れ間が差すのに、すぐさま雲がそれを覆う。何度も繰り返すうちに雲が勝って、太陽はすっかり身を潜めた。
最近の俺も同じだ。期限の日が近づいてくるたびに不安で不安で仕方なくて、復活した片頭痛は鎮痛薬じゃ抑えきれなくなっている。
痛みをごまかす為に吸う煙草の本数が増え、それをごまかす為に振り撒く香水は強くなった。嘘を嘘で固めて、その嘘を守る為に嘘を吐く。
笑えば笑うほど、心が粉々に砕けていく音を耳にした。
「なぁリカちゃん。なんでこれ?」
「ん?これって何が?」
2人の行きつく視線の先は、繋がった2人の手。
ウサギが不思議に思うのも当然で、俺は車内でも外に出ても繋いだ手を放すことはなかった。仕方なく離れたとしても、すぐに繋がることを求めた。
そうでもしないと、泣き叫ぶかもしれない……なんて、君は知りもしない。
「慧君が好きだから。ずっと触っていないと、俺の心臓が止まる」
これは本当。これから新たに大きな嘘を重ねる、俺の本当の本当の気持ち。それなのに。
「ただでさえ曇ってて肌寒いのに、クソ寒いこと言ってんじゃねぇよ」
「え、慧君寒いの?寒いなら俺の体温で温めてあげようか?」
「……また一段と寒くなった。リカちゃん、ちょっと離れて歩いて」
可愛くない返事をして、離れろと言うくせに手は振りほどかれない。絡まった指同士から伝わってくる体温は、寒いとは正反対の温もりだった。
「離れるなんて絶対に嫌。いつも、どんな時も何をしてても、俺には慧君だけだからね」
その真っ赤な顔で睨みつける様子も、隠れて照れながら笑うところも。
遠慮がちに握り返す手も、自然と寄ってくる肩も、ペースの合った歩調も。
兎丸慧を織りなす全ての細胞、仕草、言葉、空気。兎丸慧という存在そのものが。
「やっばぁ……やっぱり好きだな、好き。慧君が好き」
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