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あざとかわいい男?

 想定外の衝撃に負けて返事のできない俺に、焦れたリカちゃんが2人の間の距離を詰めてくる。その近さは太ももと太ももが触れ合うほどで、ジッと俺を見つめる瞳は反らされることがない。  正直に言って、これは…………。  ウザい。死ぬほどウザい。もうウザい。どう考えてもウザい。  数秒前までの意見を覆すようだけれど鬱陶しいものは間違いなく鬱陶しい。顔が良かろうが、んなもん見慣れたら大して効力はない。リカちゃんの顔は俺にとって、トイレットペーパーと大差ないのだ。 「リカちゃん」  確かにリカちゃんのことは好きだ。けれど別に24時間ベタベタしたいとは思わないし、俺にだってしたい事はある。リカちゃんにだってしなきゃいけない事もある――はずだけれどそれを言ったら「そんなの全部終わらせたよ慧君と一緒に過ごすために」って返ってくるから黙っておこう。 「悪いんだけど今話しかけられんのマジ無理だし、ずっと見られるのも普通にキモい。用がないなら自分の家帰れば?ってか帰れ」 「慧君それ少しも悪いと思ってないよな。お前、今にも人を殺しそうな顔してるって自覚ある?」  俺の心からのお願いを無下にし、スラスラと言い返してきたリカちゃんが強引に寝転ぶ。その頭は俺の太ももの上で、余った足がソファからはみ出しているが本人は気にならないらしい。 「は?お前何してんの?とうとう頭湧いた?」 「慧君こそどうしたらそんなに汚い言葉ばっかり出てくるわけ。どこの男の影響?」 「強いて言えばお前の弟の牛島歩だけど、人のこと男遊びが激しいホモ扱いすんな殺すぞ」 「待って、慧君になら遊ばれてみたいって思っちゃったから俺と遊ぼ」 「どこをどう聞いたらそんな解釈できんの?なあ、リカちゃんって本当に教員免許持ってる?もしかしてそれって誰かを唆して誑かして、1晩抱いてやるからって交換条件出してない?マジ殺すぞ」 「待って待って。慧君の口から出る『抱いてやる』の破壊力が凄すぎて、唆すも誑かすも漢字じゃ書けないことを指摘し忘れそうになる」  ちゃっかりしてんじゃねぇか。そう言おうとした瞬間、手元が狂って親指がスマホの画面に触れた。華々しく『tap』と書かれた場所に触れる自分の指を見つめても、押されてしまったガチャがくるくる回る。 「てっめぇ!!!人がせっかく貯めたポイントが!!!」 「え?でも押したのは慧君じゃない?」 「リカちゃんが変なこと言わなきゃ俺は押してなかった!だからリカちゃんが悪い!全部、全部お前が悪い!!泣いて謝っても許さない!」 「なんて横暴な……」  どれだけ叫ぼうと言い合おうと、無情にも回るガチャ。結果にたどり着くのが怖くて戸惑う俺をよそに、痺れを切らした画面がピカッと光って切り替わる。 「リカちゃんもう出禁!!」 「だから俺は一瞬たりとも触ってない……あれ、なんかキラキラしてない?」  リカちゃんに言われ、恐る恐る画面を見る。細めた目に映る文字と映像。 「超絶レアじゃん!!!!」  画面上を優雅に舞う、確率0.1%の超絶レアキャラ。リリース当初から頑張ってもなかなか当たらなくて、いっそのこと俺の世界線では存在しないのだと思っていたキャラが、飛び回りながら『助太刀するぞ!』と軽快に笑っている。 「嘘だ……。俺が何ヶ月経っても当てられなかったのに、こんな状況で当たるとか嘘。俺は信じない絶対に信じない。きっとこれは俺のスマホじゃない」 「いや、どう考えても慧君のでしょ。俺のはテーブルの上に置きっぱなしだし」  リカちゃんの声なんて全く聞こえない。突如現れた憧れの存在――たかがゲームのキャラに大げさかもしれないけど――に、俺の心はドキドキして、頭はフワフワして、頬はニマニマ緩んでしまう。そんな俺を見下ろすリカちゃんの瞳の温度に、気づかないで。 「慧君」  これで今回のイベントはイイ線いきそう。未だ締まらない俺の頬をリカちゃんが突く。 「けーい君…………ところで、俺にどんな礼をしてくれるのかなぁ?」 「は?」  開いた口が塞がらないとは、このことだ。全くもって意味がわからない。どうして俺が、お前に、礼を、しなきゃ、だめなのか。  その答えをリカちゃんが教えてくれる 「それ当てたご褒美。だって、さっきのクルクルの原因が俺なら、当てたのも俺だろ」  にっこり笑ったリカちゃんが、俺の頬に当てたままだった指をグリグリ動かす。地味に痛いのは、きっと散々悪口を言った嫌がらせも含めているんだと思う。なかなか根に持つ男だ。こういうやつは、無視するのが1番だと知っている俺は、リカちゃんの手を払い退けようとした。  払い退けようとした、はずだった。

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