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あざとかわい、くない男

 ところが。信じがたいけれど、信じたくないことが起こってしまった。 「は?!なんっ……で??」  つけた勢いを逆手にとられ、気づけば俺の身体は反転していて。膝枕の体勢からよくもまあ男子高校生を組み敷けたな、と思わないでもない。お前の腹筋おかしいんじゃねぇの、なんで教師してんだよ、ああ頭が良いからか――って現実逃避をしても、現実は変わらない。 「どういうことだよこれ。なあ、リカちゃん」  俺が自力で、自分の力だけで超絶レアをゲットしたように、俺が押し倒されたのは変わることのない真実……なんだか格好いいことを言っている風で、男に押し倒されているんだから、ちっとも格好つかなかった。 「慧君」  呼ばれてすぐに重なった唇は柔らかくて、すこし温かい。開いたそこからコーヒーの味がするリカちゃんの舌が入り込んでくる。歯の表面をぐるりと撫で、その度に口の中がちょっとだけ苦くなる。 「んん、おま、やめ」 「慧君も舌出して」 「なんで俺が……っ、ふ、あ……うぅ」  出してって言ったくせに自分から引き寄せようとするリカちゃんの舌は、持ち主に似て自由人だ。俺のを見つけて絡んできたかと思えば逃げ、追いかける前にするんと居なくなる。 「はっ。慧君が上手く飲み込んでくれないから、耳の辺りにまで垂れちゃってる」    リカちゃんの指が俺の頬を移動する。言葉通り垂れてしまった涎を辿って、それを口に含んで綺麗にしてくれる。 「……お前……なにしてんの、マジでさぁ。無いわ、ふつーに無い。こんなの」  呆れて言ってみても本当は嫌だと思っていないことなんて、きっとバレてるんだろう。だって、嫌なんかじゃなくて嬉しいんだから。  潔癖症のリカちゃんがこんなことをするのは、俺にだけだ。このクソほど甘ったるい雰囲気も、とんでもない暴言を許すのも、らしくなく構って宣言するのも、わざわざ休みの日に世話を焼いてくれるのも。  全部、何もかも、0から100までの全て、獅子原理佳まるごと俺だけ。    そう思うと面倒だった構ってアピールも満更ではなく、寧ろアリというか、どうせ暇だし雨で出かけるつもりもないし、そもそも俺は超超超インドアだし。  心の中で何個も理由をつけて、誰も聞いてなんてないのに言い訳する。そうすると今度は、手に持ってるスマホが無性に邪魔に思えた。ずっと欲しかったキャラクターの声すら聞きたくなくて、電源を落としたそれを静かにテーブルに置く。  安心しろ俺、このゲームはオートセーブだ。 「リカちゃん。仕方ないから昼寝するまでの時間なら構ってやる。でも本当、マジで、本当に本当に仕方なくだから。本当は面倒くさくてウザい今すぐ離れろ、本当に俺にくっつくなって思ってるけど、本当の本当に仕方なくだから、そこのところ勘違いすんなよ」 「やっば……慧君、この短時間で本当って7回も言ったね。いっそ清々しいな」  言った俺にリカちゃんが笑う。嬉しそうな顔を見ると、完璧超人だって呼ばれている『あの』獅子原先生も、俺の前限定じゃ普通の年上彼氏なんだなぁって思った。    「……俺、慧君ほどチョロい生き物いないと思う」    ――って、リカちゃんが呟くまではな。                              END.                   

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