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10年後の君へ⑩

 1年後には、静かに流れる涙を拭いて  3年後には、白くて小さい花を贈って  5年後には、ぎこちなくても笑顔を見せて  7年後には、あの日と同じように憎まれ口を叩いて  そして10年後。  10年後の君へ、最後のお願い  俺が好きな慧君は、驚くほどに生意気で、それでいて寂しがり屋で強がりで。くだらないことで不安になっては人を疑うし、それが解消すれば何もなかったかのように笑う。  こっちがどれだけ想っていても、慧君には半分も届いていないのではないかと、思わず心配になったぐらいだ。  そのくせ、たまに蕩ける笑顔を見せてくれる。  少し高めの声で呼ばれる『リカちゃん』が心地よくて、遠慮がちに伸ばされる手がもどかしい。  気分でころころと変わる態度に、何度頭を抱えたかはわからない。けれど、今になって思うのは、それが慧君なりの愛情表現だったんだろうね。  この手紙が君に届く頃、そんな慧君も随分と大人になっただろう。もしかしたら、これはただのお節介なのかもしれない。そうであってほしい。  お節介な俺から、慧君に最後の宿題をあげる。    どうか、どうか俺を忘れてください。慧君も幸せになってください。  慧君の分の不幸も俺が持って行ってあげたから、これから先は笑顔で過ごしてください。  君と過ごした時間は短かったけれど、確かに俺は幸せでした。本当に、楽しかった。  この宿題の答えを出すのは、何十年かかっても怒らないから。ほら、こう見えて気は長い方だし、待つことには慣れているからね。  だから答えはゆっくりと。慧君のペースで慧君だけの思い出を作って、いつか見せてほしい。  どれだけ遠回りしても構わない。  だって俺は、兎丸慧だけのものだから。

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