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10年後の君へ⑪
* * *
そんな手紙が届いたのは、俺が20歳になって少しした頃。切手の貼られていない手紙は、きっとリカちゃんが誰かに頼んだんだろう。
俺が大人になった時に届けるようにって。これから先も笑って生きていけるように、励ますつもりだったのかもしれない。
この手紙を初めて手にした時は、涙ですぐに読むのをやめてしまった。
それから何回も挑戦して、やっと最後まで読めた時。俺が真っ先に思ったのは、リカちゃんは最後まで勝手で最後まで偉そうで、最期までずるい男だってこと。
なんで俺の行動をお前に決められなきゃいけないのか。
そもそも、1年後や3年後なんて、手紙を受け取ったときにはもう既に過ぎてしまってるじゃないか。変なところで抜けているリカちゃんに何か言おうにも、本人がいなきゃ不完全燃焼のままだ。
「俺が素直に守ると思ってんじゃねぇよ、バカ」
リカちゃんがいなくなって、何度も後を追おうとして止められて。リカちゃんに囲まれて生きてきた。
リカちゃんの服を着てリカちゃんの物を使って。それが破れようと壊れようと、絶対に捨てなかった。他人から見たら不必要ながらくたでも、俺にとっては唯一のものだったから。
いつもリカちゃんに包まれ、リカちゃんと一緒にいるつもりだった。それを口にしたことはないけれど、言わなくてもみんなわかってくれたのだろう。
しつこく買い物に誘ってきた拓海も、高校卒業と同時にルームシェアを提案してくれた歩も、理由をつけてはプレゼントをくれた桃ちゃんも、リカちゃんとは違った味付けの手料理を振る舞ってくれた美馬さんも。
みんな俺のことを心配して、良かれと思ってしてくれたのだとわかっている。けれどそれを受け入れるには俺はまだまだ子供で、大人になるつもりもなかった。
だって俺は、いつだってリカちゃんの私物を身に纏っていて、新しく買い替えたはずのスマホにもリカちゃんとの思い出が詰まっていて、どんなに遅い時間でもリカちゃんと2人で過ごした家に必ず帰った。
2人で使っていたベッドに1人で眠った夜もあれば、それに耐えられなくて徹夜した日もある。目を閉じれば隣にリカちゃんがいる気がして、勢いよく飛び起きれば誰もいない。
癖で空けるようになったベッドの片側のシーツは、いつも綺麗なままだった。
「言っておくけど、先に約束破ったのお前だからな。この、嘘つき変態野郎が」
ずっと隣にいると言ったくせに。リカちゃんの言う『ずっと』は随分と短い時間のようで、俺は1人きりの時間の方が長かったくらいだ。だから俺がリカちゃんの言うことを素直に聞く必要は、全くもってない。
だって、最初に約束を破ったのはリカちゃんの方だからだ。
あの日。俺を庇ったリカちゃんが最期を迎えた場所に立ち、ポケットに入れてきた小箱を手のひらの上に乗せる。
この中の物と対になった片方は、何年も前から俺の薬指にある。高価ではないけれど、リカちゃんに似合いそうだと思って用意した物。
リカちゃん以外は要らないと決めた証。
誰にも近づかせない、誰にも触れさせない。俺の世界にはリカちゃんしか存在しなくて、それがいなくなれば、誰の姿もなく誰の声も聞こえない。
――リカちゃんは、永遠に俺だけのもの。
それなのに別々の場所にいるのは、どう考えたっておかしい。
――俺は、永遠にリカちゃんだけのもの。
やはりどう考えても、一緒にいるべきだ。
これは俺のわがままでも子供っぽい屁理屈でもなく、正真正銘の真実。そうあるべきが自然なのだと証明する為、リカちゃんがいなくなってから地獄の時間を必死に過ごしてきた。
笑うべき時に笑って平気なふりをして、1人の部屋に帰って記憶の中のリカちゃんと生きて。
そして、やっと――。
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