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2. Present for Me 1
ピンポン、とインターフォンが鳴る音にリビングのモニターを確認すれば、アップで映るのは俺のよく知るストーカーの顔だった。
休みの日にまで一体何だよ。いや、何って目的はもう大体わかってるんだが。
小さく溜息をついて、俺は通話ボタンに伸ばし掛けた手を引っ込めた。応答せずにいると、ピンポン、ピンポンと立て続けに何度も鳴らされる。
うるさい。舌打ちしながら、俺は決意を固める。今日こそは、絶対に開けないからな。
居留守を決め込もうと息を潜めて忍び足でリビングのソファに向かう俺に追い討ちを掛けるように、背後から聞き慣れたあの能天気な声が耳に届いた。
『カイくん、カーイくん! いるんでしょ?』
いないよ。早く帰れ。
心の中で返事をしながら無視を貫こうとする俺を、その声の主が許すはずもなかった。
『俺知ってるよ。カイくん、今一人なんだよね? 午前10時20分にカイくんのご両親が二人で出掛けて、午後一時におねえさんがお洒落な格好で出て行ったの見てたもん。もしかしてデートかなあ。俺もカイくんとデートしてみたいな。えへへ』
げんなりしながら俺はモニターを振り返る。そこに映るのは、おかしな性格にまるで似つかわしくない正統派美少年の微笑みだ。
言いたいことをまくし立てたそいつは一旦口を閉ざして、頬を染めながらおもむろに唇を開いた。
『ねえ。カイくん……中に入れて?』
あたかも卑猥な言葉を言い切ったかのように誇らしげな顔を見せつけられて、俺はとうとうプツリとモニターの表示を切り、足早に玄関へと向かった。
勢いに任せて扉を開ければ、そこに立っているのは満面の笑みを浮かべたクラスメイト。
「わあ、やっと会えたね! 一日振り!」
「おい。近所迷惑だし、何より俺が迷惑なんだけど」
「ふふ。カイくんってツンデレだよね」
「帰れ、変態」
冷たくあしらったつもりなのに、堪えるどころか「カイくんに褒められちゃった」と恥ずかしそうな顔をしている。ああ、こいつにダメージを与えるにはどうすればいいんだ。
それにしても、一体何時間この家を見張ってたんだろう。その気力と体力は別のところに使うべきだと心から思う。
「ね、カイくん。今日は折り入ってお願いがあるんだけど」
こいつの折り入っての頼みなんて嫌な予感しかしないが、こんなところを近所の人には見られたくはない。だから俺は、渋々家に上げてやる。
「ほら、とりあえず入れよ」
「うん、やったね!」
学校公認ストーカー七瀬は、玄関扉を閉めた途端、無駄にかわいい笑顔を浮かべて一目散に飛びついてきた。
「カイくん、大好き!」
学校が休みの日ぐらい、穏やかに過ごさせてくれ。
その細い身体をそっと振り解きながら、俺はもう一度深い溜息をついた。
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