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3. Because I Love 7
それでも数秒後に顔を上げたときには、もういつもの七瀬に戻っていた。へへ、と笑いながら抱きついてきて、不自然なぐらい明るい調子で言う。
「ごめん、何でもない。俺も、カイくんのこと大好き。だから、いっぱい突いて?」
そうねだりながら自ら腰を動かす七瀬に煽られて、俺は納得のいかないまま抽送を再開させてしまう。
一度限界の寸前まで来ていた感覚は、容易く同じ場所まで辿り着き、更にその先へと高められていく。互いを貪るように求め合いながら口づけて、けれどどこかチグハグした納得のいかない感じが鋭い棘のように心に引っ掛かっていた。
七瀬、お前が欲しい言葉はこれじゃなかったのか?
「カイくん、ああッ……イく、イく……」
腕の中で震える七瀬に引きずり込まれるように、溜め込んでいた熱を残らずその奥へと注ぎ込んだ。
一度出してしまえば妙な身体の熱は収まって、それと共に気持ちの昂ぶりも少しずつ引いてきていた。
けれど、七瀬の様子がおかしい。いつになく無口で、表情も暗いのが気になる。いつもなら終わった後はベタベタ抱きついてくるくせに、それもない。
「カイくん」
後処理を終え、シャワーを浴びて服を着たところで、七瀬が思いつめた顔のまま俺の名を呼んだ。
「……ごめんね」
やけにしおらしい声で謝ってくる。向かい合って座り込み、七瀬はしょんぼりと項垂れて視線を落とした。
「何がだよ」
「あのチョコレート、実は惚れ薬なんだ」
「はあ?」
素っ頓狂な声が飛び出した。惚れ薬だと? そんなあやしいものが、この世に存在してたまるか。
「そんなもん、どこで手に入れたんだよ」
「なんか、偶然もらったんだもん」
そんなものを偶然もらう奴がどこにいる。
「誰に」
「それは」
言えない、と口ごもる。だか、そんなあやしいものを七瀬に渡した相手について、おおよその見当はついていた。
確かにあのチョコレートを食べたときには、身体が熱くなったし七瀬もいつになくかわいく見えた。けれどそれが惚れ薬の効果だなんて、錬金術と同じレベルでありえない。
しかし七瀬は完全に信じ切っている様子だ。今まで見たこともないぐらい神妙な面持ちで言葉を続けていく。
「カイくんが俺のこと好きになってくれたら嬉しいなって、ただそれだけだったんだよね。でも好きって言ってもらえたんだけど、嬉しいっていうより何だか悲しくなっちゃって」
一旦言葉を区切って、思い切ったように顔を上げた七瀬は、にっこりと微笑む。それが無理に作った笑顔なのは、見て取れた。
「俺、いつかカイくんに本当に好きになってもらえるように頑張るねっ。それまで、諦めないで目一杯カイくんをストーカーするから」
泣きそうな顔で笑う七瀬を前に、俺の胸はズキズキと痛む。
そんな変な薬のせいなんかじゃない。俺は多分、もうずっと前からお前のことが好きなんだ。
今ここでそれを言ったところで、七瀬はやっぱり薬の効果だと思うんだろう。
「わかったよ」
溜息をつきながら手を伸ばしてふわふわした髪を撫でてやると、七瀬は嬉しそうな顔でぴょこんと抱きついてきた。
「でもカイくん。俺の食べてるチョコレートを無理矢理取り上げようとしたのって、もしかして俺のことを守ってくれようとしたから? ああっどうしよう。あの時のカイくんもうホントにかっこよくて、思い出したらまた勃ってきた……!」
ボディソープのいい匂いを振り撒きながら、七瀬は股間を俺の太股に擦り付ける。そこは確かに硬くなっていて、布越しでもその熱が伝わってきた。
いや、今シャワー浴びたところだから。
「ねえカイくん。今度は変わった体位、試そ?」
うるうると瞳を揺らしながら誘ってくる七瀬に結局流されてしまう。
華奢な身体を押し倒しながら、俺は心の中で自分の弱さを糾弾する。
七瀬が俺に興味を失くすときが来るのが怖い。
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