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5. Stay with Me 4

李一くんは手を伸ばして枕元にあるインターフォン用の子機を取った。その小さなモニターに映し出される姿をこっそり横から覗き見て、俺は仰天する。なぜならそれは、紛れもなく隣のクラスのめちゃくちゃかわいい男の子だったからだ。 普段見る制服姿とは違うラフな格好をしてるけど、間違いない。 「七瀬、おいで」 一言そう応答して、李一くんはエントランスの解錠ボタンを押した。 しばらく間をおいて、インターフォンが鳴る度に解錠ボタンを押すことを繰り返す。三ヶ所のオートロックを通過した七瀬くんが、まもなくここにやって来る。 李一くんは身体を起こしてベッドから立ち上がり、寝室の扉を少し開けたまま部屋を出て行く。やがて、玄関のインターフォンが鳴って、デッドボルトが回る音が続いた。李一くんが鍵を開けたんだろう。 「リイくん!」 扉が開く音と共に聞こえてくるのは弾けるように元気な声。寝室から玄関の距離は近い。何となく隠れておかなければいけない気がして、俺は身動きもせずに息を潜めていた。 「よかったあ。何回か携帯に電話したけど、通じなかったから心配して来ちゃった」 「ごめん。手元に置いてなかったんだ。多分、電源が切れてる」 「それならいいんだ。顔見たら安心したし。ふふ」 同じ中学出身の二人は、随分仲がいい。少なくとも、こうして李一くんが心を許しているのは俺が知る限り七瀬くんだけだ。 「──あれ? お客さん?」 明るい声のトーンが変わった。そうだ、隠れていても意味がない。玄関に靴を置きっ放しだった。 「ああ。そうだ、紹介しようか」 いやいやいや。李一くん、嘘でしょ? だって俺、真っ裸だよ? ちょっと七瀬くん、断って! 「へ? ホントに? うん、してして!」 俺の願いは通じなかった。すぐさま、李一くんの冷たい声が聞こえてくる。 「おい、来いよ」 その声に逆らう術を俺は持ち合わせていない。それでも裸で出ていく勇気はなくて、ドアからそっと顔だけを覗かせる。ぼんやりした俺の視界に、ふわふわした髪をした愛くるしい七瀬くんが朧げに映り込んだ。 「わあ、リイくんのクラスの子だよねっ」 あれ? 七瀬くん、こんな地味で冴えない俺のことを知っててくれてるんだ。 いや、この状況だとむしろ知らないでいてほしかったけど。 「来いっつってるだろ」 李一くんに促されて、俺は泣きそうになりながら全裸で登場する。 そうか、これも李一くんとのプレイの一環なんだ。 どうでもいい理屈で、強引に自分を納得させてみる。

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