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7. the Way You Are - side M - 5

隣に立つ七瀬くんの横顔を覗き見ると、本当にかわいい。勿論俺にとって一番かわいいのは李一くんなんだけど、女の子の格好をした七瀬くんはテレビに映るアイドルみたいにキラキラしてて、近くにいるだけで妙にドキドキしてしまう。 李一くんがコンテストに出なくてよかった、と心から思う。俺はきっと気が気じゃなかったはずだ。 「ミイくん」 小さな声で、七瀬くんが俺を呼ぶ。どうでもいいけどミイくんって呼び方、定着しちゃったんだ。別にかまわないんだけどね。 「その服とかメイク、リイくんが?」 「うん、そうだよ」 そっと頷けば、七瀬くんは納得したようにそっか、と言葉を続けた。 言われてみれば、この服はきれいだけど新品という感じじゃない。 ワンピースといい、使いかけのメイク用品といい、李一くんが家にあったものを持ってきたのかもしれない。 じゃあ、それはもしかすると。 「俺も、中学のときに一回しか会ったことないんだけど。ミイくんって、リイくんのお母さんに、ちょっと似てるんだよね。前からそう思ってたんだけど、今のミイくんは本当によく似てる」 七瀬くんの言葉にびっくりして、ステージの上だというのも忘れて勢いよく振り返ってしまう。 「え? 俺が?」 ん、と首を縦に振る七瀬くんは、なぜだか少し悲しそうな顔をしていた。 豪華な広いマンションにたった一人で住んでる李一くん。その事情を、七瀬くんは知ってるのかもしれない。 結局俺は、それ以上七瀬くんに突っ込んだことは聞けなくて、順番に回ってきたインタビューにも上の空で答えていって。 投票時間が終わって開票してみれば、やっぱり七瀬くんがダントツの一番で、大盛り上がりのままミスコンは終わってしまった。 その勢いで後夜祭が始まったステージを後に、俺は教室へと向かう。 コンテストが終わればもうこの格好でいる理由なんてないから、とりあえず早く着替えてしまいたかった。 誰もいないはずの教室の扉を開ければ、そこには俺の大好きな王子様が立っていた。 夕暮れを背に、キラキラと後光が射している。 ああ、なんてきれいなんだろう。 「李一くん、ごめんね」 優勝なんて最初から無理だってわかってたんだけど、それでも申し訳なくて謝れば、李一くんは険しい顔で俺に歩み寄ってくる。 「もう一回、言えよ」 「え?」 「謝れっつってんの」 ああ、怒ってるんだ。李一くんの期待に応えられなかった自分が不甲斐なくて、うなだれたまま俺は口を開く。 「ごめんなさい」 あの七瀬くんのかわいさには絶対に叶わないし、仕方ないよ。それでも俺、どうしてかわからないけど準優勝だったんだ。これも李一くんが俺をきれいにしてくれたお陰だね。 一気にそう続けようとした言葉を、俺はごくりと呑み込んでしまう。 李一くんが、今にも泣き出しそうにゆらゆらと瞳を揺らしながら俺を見ていたからだ。 ねえ、李一くん。君は、誰を見てるの?

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