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9. Crush on You 1
威風堂々とそびえ立つ二十五階建ての超高級マンション。その最上階は、本当に日当たりがいい。
この開放感溢れるLDKで圧倒的な存在感を発揮するのは、まるでインテリアのような佇まいを醸し出す美しいマーブルキッチンだ。ここで何度も料理を作らせてもらううちに気づいたのは、この部屋の主であり俺の仕える王子様でもある李一くんは卵料理がお好みだということだった。
それも凝ったものじゃなくて、オムライスだとか目玉焼きだとか、そういうシンプルな家庭料理。口には出さないけど箸の進み具合から察するに、お弁当に入ってるような卵焼きも大好物みたいだ。
卵焼きの味付けって、不思議なぐらい家庭によって全然違う。卵を焼くにおいがお母さんのにおいだっていうのは、そういう意味では正しいのかもしれない。だってその卵焼きは、お母さんにしか作れない味だから。
俺はこの広々としたキッチンで卵焼きを作る度に何とも言えない幸せな気持ちになって、だけど同時にちょっと胸が痛くなる。子どもの頃に食べた卵焼きの味は、なぜだかとても強く印象に残るものだ。だから、俺の作る卵焼きが少しでも李一くんのお母さんの味に近ければいいのになと思う。
リビング一面に広がる大きな窓からは陽の光が強く射し込む。普通の人が一生身を粉にして働き続けても手の届かない価格であろうこの部屋は、男子高校生一人が住むにはあまりにも広過ぎる。
清々しい休日の朝ごはんは、出汁を入れたふわふわの卵焼きに、わかめと豆腐のお味噌汁、ほうれん草のおひたし。炊き立てのご飯の匂いがふんわりと漂ってくる。
李一くん、まだ寝てるのかな。
寝室から出てこないことが気になって様子を見に行けば、案の定王子様は嵩のある羽毛布団を被ったまま気持ちよさそうに眠っていた。
李一くんは普段は早起きをして登校するのに、俺が泊まる休日の朝は起きるのが遅い。それはきっと前の晩にセックスばかりして疲れてしまうからだ。
やっぱりあんな小さなところにこんなものを挿れちゃうなんてどう考えても身体に負担がかかるよね、と申し訳なく思ってしまう。
扉を開けたまま愛らしい寝顔を遠目に眺めていると、ふと昨夜李一くんの手で俺の大事なところに嵌められた輪っかのことを思い出す。途端に根元がじんじんと疼きだすから不思議だ。
あの、無駄にかわいい空色をしたブルブル震えるリング。
先日一緒に買いに行ったあのオモチャは、李一くんのお気に入りのひとつになっている。
あれ、結構刺激が強くてきついんだよね。まあ俺は全然我慢できるし、李一くんがよければもうそれでいいんだけど。
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