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10. Love You, too 2
「あ、待ってってば」
ちょこまかと後ろからついてくる七瀬は本当に嬉しそうな顔をしている。毎日呆れるぐらい楽しげで、そんな七瀬を見ること自体は別に嫌いではない。
クラブ棟の長い廊下を抜けた奥にある更衣室の扉を開ければ、着替えを終えたクラスメイト三人が出てくるところだった。中には他に誰もいないようだ。
「あー、ちょうどよかった。鍵、頼むな」
そんな風に声を掛けられて、俺は渡された鍵を受け取りながらも危機感を覚える。ここの鍵は日直の俺が返さなければならないから、最後に戸締まりをすることはもともと俺の仕事だ。問題はそんなことではない。
後ろで引き戸がスッと閉まって、嫌な予感に振り返れば含み笑いを浮かべた七瀬が舐めるような目つきで俺を見ていた。
「カイくん!」
「やらないからな」
「まだ何にも言ってないよねっ」
「これから言うつもりだろ。やらないぞ」
釘を刺す俺をじっとりと艶かしい瞳で見つめながら、七瀬は後ろ手で素早く扉に鍵を掛ける。無駄に器用なところが全く気に喰わない。
両脇に縦長の三連ロッカーが並ぶ通路をじりじりと後ずさる。更衣室は着替えるところであって、それ以外の用途に使うべきではないんだ。
「カイくん! エッチしたいよう!」
だから、デカイ声を出すなって。
嫌な予感が物の見事に的中して、俺は頭を抱え込みたい気分だった。
「こんなとこでできるか、バカ」
いや、できる。言い返しながらも俺は頭の中で自分の台詞を即座に否定してしまう。昼休みが始まったばかりの時間にクラブ棟まで来る奴なんて、いるはずもない。
人が来たらどうするんだ、という言葉を呑み込んで、俺は別の方向から七瀬を説得しようとする。
「腹が減ってるから、駄目だ」
「わあ、俺も減ってるんだけど! 一緒にお腹が空くなんて、これって運命だよね?」
違う。生理現象だ。
背中に冷たいスチールがあたる。にじり寄ってくる七瀬にいつの間にか俺は追い詰められていた。至近距離で潤んだ瞳を向けられて、正視できずに思わず目線を逸らす。
「仕方ないじゃん。カイくんの水着姿見てたら、ムラムラしてきたんだもんっ」
細い両腕が伸びてきて、身体を摺り寄せるように抱きつかれる。太腿に押しつけられた中心は、薄い生地越しでもしっかりと反応して硬くなっているのがわかった。
「ねえ。カイくん、エッチしよ?」
上半身の肌が直に触れ合っている。ドクドクと伝わってくる七瀬の鼓動がうるさいが、それはもしかすると俺のものかもしれない。
どちらの心拍音かもわからないぐらいに密着したまま、七瀬がそっと唇を重ねてきた。
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