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12. Be My Cat 1
「あの、李一くん」
頭に覚える違和感に戸惑いながら名前を呼べば、愛しの王子様は鋭い視線を俺に向けてくる。
冴え冴えとした眼差しの奥にはわずかな熱が見え隠れしていて、見つめられるだけで期待でゾクゾクと背筋が震える。
「これ、何ですか」
勇気を振り絞ってそう尋ねると、李一くんは呆れた顔で俺をたっぷり十秒間見つめてから、ようやくきれいな形の唇を開いた。
「お前の耳だろ」
ああ、うん。そうなんだけど。いや、違うんだけど。
さも当然という口調でそんなことを言われてしまって、困った俺は軽く頭を振ってみる。頭の上でチリンと鳴り響くのは、かわいらしい鈴の音。
そうです。俺は今、李一くんの命令で頭に猫耳を付けています。しかも、なぜだか全裸です。
ピンで留めるタイプのそれには、鈴が付いている。これもきっといつものネットショップで購入したに違いない。
それにしてもこの猫耳は、一体どんな用途のために存在するんだろう。とても需要があるとは思えないんだけど。
「……恥ずかしくないのか」
学校から帰って来たばかりでまだ制服姿の李一くんは、ぽつりとそんな言葉をこぼす。心なしかガッカリしているように見えるのは俺の気のせいだろうか。
「これを付けて外に出るのはちょっと恥ずかしいけど、ここだったら全然平気だよ」
だって、もっと恥ずかしいことをいっぱいさせられてるし。
俺が乗ってるのは、広い寝室に相応しいクイーンサイズのベッド。上質のマットレスは快適過ぎるぐらい最高の寝心地だ。何度もここへ通ううちに、俺はいつしか自分のベッドよりもこっちの方がよく寝られるようになっていた。
……まあ、なかなか寝かせてもらえないときもあるんだけど。
それにしても、俺に猫耳なんて付けて李一くんはどうする気だろう。こんなことで悦んでもらえるならもちろん何てことはないし、むしろちょっと快感なぐらいだ。
でも俺、一応ネコじゃなくてバリタチなんだけど。
「へえ。じゃあ今度はそれを付けて外を歩くか」
さらりと恐ろしいことを口走りながら、李一くんは制服のジャケットを脱ぎ、音を立ててネクタイを抜き取った。上からひとつずつ見せつけるようにワイシャツのボタンを外していくのを、俺はいつもどおりお預けの状態で見つめてる。
本当は俺が脱がせてあげたいところだけど、李一くんは滅多にそれを許してくれない。
一糸纏わぬ姿になって、麗しの王子様は膝立ちのままじりじりと俺のもとへとにじり寄ってくる。
ああ、なんて神々しいんだろう。部屋の灯りを消さないと、眩しくて目のやり場がない。
「僕、ペットが飼いたかったんだ」
そう言いながら、李一くんは手を伸ばして俺の耳に触れる。リアルな耳じゃなくて、おもちゃの方。もちろん触られている感覚はないんだけど、頭に伝わる振動で猫耳をモフモフされてるのがわかった。
「子どもの頃。無理だったんだけど……」
そう言って俺を見る李一くんの瞳は思いのほか優しくて、胸が一段とドキドキしてしまう。
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