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12. Be My Cat 3
濡れてしまった唇を親指で拭うと、王子様は乱れた呼吸を繰り返しながら何かを言いたげに俺を見上げてる。気怠そうなぼんやりとした表情も抜群にかわいい。
ずっとずっと、李一くんを独り占めできればいいのに。
「……李一くん」
どうすればこの気持ちをきちんと届けられるんだろう。
屈み込んで世界で一番きれいな顔を覗き込む。戸惑いに揺らぐ視線を捕らえた俺は、大好きな人としっかりと目を合わせながら恐る恐る口を開いた。
「俺を、李一くんのペットにしてください」
途端に、大きな目がもっと見開いてまん丸になる。そんなに見つめられると、恥ずかしくて穴が空いてしまいそうだ。
だって、ペットってよくない? 下僕よりは確実に格が上だし。何より、愛されてる感じがする。好きな人に飼われる愛玩動物のポジションって、想像するだけですごくいい。
だって俺は、李一くんに必要とされたいんだ。
「……お前って、本当に」
言葉を呑み込むように口を噤んで、李一くんは視線を逸らす。その続きをおとなしく待つ俺の前で、忌々しげに舌打ちをして吐き捨てた。
「ペットじゃないんだ、バカ」
そうだよね。やっぱり昇格は無理だよね。
ちょっとガッカリしながら、それでも俺はしみじみと思う。
下僕でも何でもいい。こんなに素敵な李一くんの傍にいられることが、俺には最高に誇らしいんだ。
「湊人、早く」
差し伸ばされた手を取って、引き寄せられるままゆっくりと覆い被さる。いつになく優しい瞳をした李一くんは、俺の頭に付いた猫耳を何度も触る。まるで、大切な飼い猫をかわいがるみたいに。
だけど俺よりも李一くんの方が猫みたいだと思う。
気高くて、なかなか懐かなくて、でも本当はすごく淋しがりやで。
高貴で孤独な王子様が、いつか俺に心を開いてくれるときは訪れるんだろうか。
「李一くん。中に挿れてもいいですか」
返事の代わりに噛みつくようなキスをされて、挿し込まれた舌に舌を絡めていく。
このままずっとこうしていられたらいいのに。
そういう甘い関係じゃないのに、肌を合わせているとふと勘違いしてしまいそうになる。
こんなにかわいい李一くんの姿を、絶対に他の誰にも見せたくない。だから俺は、李一くんの望む形で一緒にいられればそれでいい。
そんなことを口にしたら、また呆れらてしまうかな。
頭の片隅でいろんなことを考えながら、俺は大好きな人とひとつになるために、ゆっくりと温かな体内に触れていく。
"Be My Cat" end
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