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「ん、んンっ! ふ……ぁあ」
シャワーによって幾らか誤魔化されているが、それでも響く自分の高い声が嫌で掌で塞ぐも許されず、すぐに外されてしまう。
戸惑う一磨は隆司によって服を全て剥がされ、二人で風呂場になだれ込んだ。
「ぁ……ぅんっ」
向かい合わせで口を塞がれ、舌を絡めることに夢中になっていると、不意に撫でられた背にビクリと肩を揺らした。
そのまま、ぬるぬると多分ボディソープを纏った大きな手が背筋に沿って滑らかに這い、一磨の皮膚に塗りこんでいく。同時に熱も置いていかれていくようで、シャワーの熱さだけでない火照りが身体を包んでいく。
「んっんっ……」
背中だけでなく、肩も胸元も腹部も満遍(まんべん)無く広げられ、泡立てられていく。シップが貼ってあった右腹部には効果が残っているのか、他とは違うヒンヤリとした感触を憶えつつ、時折思い出したように悪戯に摘まれる突起に一磨は水滴を撒き散らしながらかぶりを振った。
自分を苛(さいな)む彼に縋りつつ、その掌のあたたかさに陶然とする。
普段入浴時には外して脱衣所に置いておく胸元の鎖とその先にも熱い雨が降り注ぎ、隆司とは違う熱を一磨に与える。
まるで、やさしく見守るかのように。
「っぁ……あぁ、あ」
「屈むな。洗えない」
洗ってなど、いないくせに。
一磨は潤む視界の中、自分を徐々にだが確実に追い詰めていく男を仰いだ。
数多の湯気の所為で淡く照らす光を背に、彼の表情が窺えない。
「ん、りゅぅ……ふぁ、アッ!」
「どうした」
どうしたも、こうしたも無い。
一つ一つ背骨を確かめるように下降した指が行き着いた先は臀部。
ゆっくりと感触を確かめるように揉みしだかれる。
わざと掠められる二つの狭間。
その快感をやり過ごそうと、目の前の胸に顔を埋(うず)めれば、今度は耳にねっとりと舌を這わされる。
「っや、やめ……っ」
一度に様々なところから受ける愛撫に震える足。
自力で立っていることが難しい。
久しぶりに受ける彼からの行為に、既に陥落しかかっている。
ネツに、浮かされる。
「っは、も、もぅっ」
鋭く荒い息を吐き、一磨は観念した。
「ん?」
「もぉっ、ンっあ、いぃか、らぁ……」
甘えを含んだ、一磨の上ずった声に彼は笑った──ような雰囲気を漂わせた。実際逆光のため確認はできなかったが。
「ん、りゅぅン……ひぁぁあっ!」
滑りを反応している屹立に塗りこまれて、一磨は悲鳴を上げた。
駆け上がった快感に顎を上げて仰け反った身体を支えられ、先端をくすぐられる。
「っいぁ……ゃぁやだぁ……も、っあぁぁ……」
自分でではなく、彼に直接的に触られる快美感にどうしようもなく、抵抗できず追い上げる手に素直に欲を吐き出した。
力の抜け切った一磨はズルズルと壁にもたれる様にしてタイルに座り込む。
ぐったりとして動けないで居る一磨に熱いシャワーが静かに降り注ぐ。
流れていく、アワ。
そして、己の体液。
達した時に一緒に思考も溶け、呆然とその流れを眺めていた。
「…………ぁ」
止められたシャワーにも気が付かず、視界に映った白いタオルで知らされる。
見上げた男はやはり、逆光で表情が判別できない。
勝手に先に達してしまった自分に呆れているのか何なのかすら、解らない。
「っふ、……っ」
検査結果が出るまでと我慢を重ねていた身体を今さらながらに知らされ、水面下で燻り続けた火種が開花した状態は自分ではどうしようもなかった。
羞恥とともに湧き上がる不安に目元を拭うと、大きな手が大雑把に水分を拭き取ってくれる。
バスタオルに包まれたまま持ち上げられ、腕を首にまわすように促される。
上がっている息を整えるように深呼吸するも意味はなく、そう簡単には治まってくれない。
「存分に可愛がってやる」
首筋から囁かれた低い声に一磨は肌を粟立たせた。
「隆司……」
冷たいベッドに降ろされ、頬を撫でられる。
ただ、それだけでも歓喜する、どうしようもない身体。
それ以上に喜ぶココロ。
軋んだ音を立てたベッドは二人分の重さを受けて皺を深くする。
火照った身体はシーツを徐々に温めていき同時に拭いきれなかった雫が湿り気を移す。
そんなことはどうでも良いほど、焦がれた互いの温もり。
堪え性のない自分を持て余して、彼の身体との距離を縮める。
目元を染めながら触れ合う唇に酔う。
「んンっ……ぁ、……っ」
互いの睡液を分け合い、離れていく舌に物足りなさを感じながら、徐々に下がっていく男の頭をぼんやりと見つめる。
その意味を考えもしないで。
「っあ、ゃぁああっ!?」
アツ、イ──。
腰から下が一瞬で崩れる。
ネットリと、まるで灼熱のゼリーの中に放り込まれた、そんな──。
快感に仰け反りながら、涙の膜を纏った眼を見開いて、一磨は自分の下肢に施されている行為を確認して赤くなって青くなった。
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