39 / 63
7
また、だ……。
彼には貰うばかり──。
喉に引っかかる嗚咽をそのままに、目の前の胸に顔を埋める。
普段の緊張を孕んだ表情は抜け落ち、快感に酔って全てを包み込むような微笑み。その表情と相俟って肩を震わせてしゃくり上げる姿が扇情的で男を煽っているとは、一磨本人だけが気付かない。
グズグズに蕩けきった身体をシーツに預けて、しっとりと湿っている髪を梳く手に陶然として眼を閉じる。
シャラ。
胸元の鎖が動くのを感じる。
敏感になった素肌はそれをも快感の一つとして拾う。
「ん……」
「一磨」
額に、目尻に、頬に、唇に、顔中に落とされる唇に酔う。
半年振りの行為に箍の外れた思いと身体は最早制限は利かず、壊れて崩れっぱなしでも仕方が無いだろうか。
「りゅうじ……」
手を取られて通される物に、一磨は少し困った。
「あのね、コレ……」
嵌められたシルバーと共に手を握りこまれる。
「返品は効かない」
「でも……」
そのまま左手を引き寄せられて口付けを落とされる。
彼の強い視線は変わらず自分に注がれたまま。
「こんな大切なもの、俺、」
資格が、ない。
たくさん貰うだけしかできなくて、何も返せていない。
十六で直行に助けられた事も。
十八で隆司に会わせてもらった事も。
入り浸っていた芹沢家の人たちも。
偽りの家族の六年間も。
新たな家族を始めた、この一年半も。
自分は貰うばかり。
彼の愛情はふかくて、やさしくて、つつみ込んで、すべてを許してくれる。
自分はそれに甘え続けている。
そしてそれを何も言わずに、受け止めてくれる。
自分の不甲斐なさを恥はするものの、未だその改善策を立てられない。
ずっと頼っているだけではいけないのに──。
「っだって、俺」
「いいか」
歪んだ顔の輪郭を確かめるように、撫でられる。
「俺は、あんたしか欲しくない」
なんにも無いのに。
「だって……」
「あんたに俺は信用ないのか」
「っ、そんなこと!」
顔を上げた先には、男のしたり顔。
虚を突かれた一磨は瞠目した。
「なら、俺にだまされておけ」
「りゅうじ……」
「今も、これからも、一生」
一磨の返事は隆司の唇に飲み込まれ、言葉にされることはなかった。
ともだちにシェアしよう!