43 / 63

秘め事

 情事に耽(ふけ)った後の気だるさと色気を残したまま、敷かれている布団に身体を預けた恋人。  一磨の今は閉じられている泣きはらした目尻に隆司は指を這わせる。  無理をさせた。  精神的にも体力的にもいつも限界に近いギリギリの所を渡っている一磨。  拙い告白に煽られて、すすり泣くほどに攻め立てた。  だが、それ以上に欲しいという押さえられない欲求。  身体をキレイにして浴衣を纏(まと)った肢体は、それだけでも己を誘う。  ──堪らない。  涸れない強く恋(こ)う気持ちを持て余し、唇を撫でる。  ──護りたい。  そのココロもカラダも、総て。  今までも散々傷ついて、それでも抱えようとする一磨。  そんな彼には、彼だからこそ、どうしても明かすことのできない事実がある。  薄く開いた弾力のある唇を楽しむ。  旅館に無事に着いた時の安堵感。  エンジンを切った瞬間、恋人に気づかれないよう自然と洩れた、ながいながい溜め息。  腹の底から吐き出された、負っていた危惧(きぐ)の念。  眠りこけていてくれて、本当に良かった。  時々運転はしていたためペーパーではないが、それでも普段よりも断然長距離の移動。  どうも一磨は隆司が動いている車が苦手だと思っているようだが、実際は違う。  車自体が駄目なのではなく、己が運転する車で事故を起こして『同乗者を危険な目に合わせる』のが何よりも怖い。それがたとえ貰い事故だとしても、怪我を負わせても無くても。自分一人が乗っていて自動車事故を起こすならば、負傷しようが何しようが全く問題はない。  一般的な意見ではあるだろうが、過去の出来事が根強く残っているのは否めない。  まざまざと見せつけられた両親の姿は目を覆いたくなるほどであったが、それは己だけの憶(おぼ)えだ。  問題は、一家で車を出した理由。  これだけは何が何でも、墓場まで持っていかなければならない。  特に恋人には。  一磨にとって鬼籍の住人になった両親の事故が『対向車の飲酒運転によるもの』から『翌日に控えた自分の誕生日プレゼントを買いに行ってのもの』にすり替わらなければ。  ただそれだけを願って、隆司は口を閉ざす。  知ったとしたら、一磨は間違いなく己を責めるであろう。  それでなくとも元々根暗なのだ。  直接的な関わりはないかもしれないが、きっかけを作ったと大きな負い目になるだろうことは想像に容易い。  たとえ毎年、誕生日プレゼントを拒んでいたとしても。 「おやすみ」  いい夢を。  前髪を掻き上げて隠れていた額に落とす口付けに、願いを込めて。

ともだちにシェアしよう!