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「いいから、俺を見ろ」  存在意義さえも。  ガラガラと足元から、自分という者を構成する全てが音を立てて崩れていく。  舌打ちが耳を掠める。 「愛してる」  紡がれた言葉を理解するのに、時間が掛かった。  声も無く目を見開いた一磨に言い聞かせるよう、彼は続ける。 「あんたを見続けてる俺を信じろ」  隙間なく、引き寄せられる。 「あんたしか欲しくない。『自分らしく』俺の隣に居ろ」  あんたが俺に言った言葉だ。  視線はそのままに、屈んで額を合わせられる。  まるで、ソコからあたたかさを互いに分けるように。  一磨の不安を、分けるように。  隆司の強さを、分けるように。 「他のヤツのことなんか聞くな。自分が信じられないなら、俺を信用しろ。だまされたままいろ」  表情が抜け落ちたままの自分に続けられる。 「今までがどうだろうと、今、ここに居る、あんたを、見てる」  麻痺した一磨の乾いた胸に沁(し)みこませるように、ひとつひとつ区切られる言葉。 「っ、りゅうじ……解らない、よ」  このままの自分を、受け入れてくれるというのだろうか。何も持っていない自分を。 「くだらない事は考えるな。隣に居ろ」  真っ直ぐな眼差しに射抜かれる。 「理由が欲しいなら、俺のために生きろ」  意義を、くれる。 「居ても、いい、の……?」  隆司の隣に。  フッと。目を細められる。 「──ああ。」  流れた水は掌に返ることはないけれど。新たな滴を掬うため、ひとりで囲おうとしたダムは、ふたりの掌でも可能なのか。降り注ぐ総てを受け止めなくても、都合のいい様に選択してもいいのか。要らないところに留まらず、存在を容認してくれる、あたたかな場所に。  おずおずと伸ばした手で彼の背に縋る。 「それでいい」  瞼に落ちる口付けを受けつつ、甘えを誘われる。  そそのかすようにして梳かれる髪に、染み渡るやさしさ。  あんなに荒れ果てていた心は、隆司の言葉によって簡単に静けさを取り戻す。  不思議だ。 「冷えてるな」  雨とシャワーと思考に芯まで凍えた身体を示されて。 「っあ、ご、ごめん。──隆司?」  離れようとすれば、さらに強く引き寄せられ困惑する。 「一緒にあたたまるか」  見上げた顔は、イタズラを思いついた子供のようだった。

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