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「人間誰しも、他人の心まで覗けない。言葉が総てじゃないが、表さないと解らない。無理に聞き出すつもりはないが、あんなこと言うまで放っておくことはできない──解るか?」 「……えっと」  しどろもどろに答える一磨に大袈裟なほどに眉を顰(ひそ)め、隆司は再び軽い溜め息をつく。 「グダグダ下らない事考えるくらいなら、吐き出しちまえ。聞いてやるから」 「でも、」 「辛気臭いとヤル気も萎える」  さも当然とばかりに不遜に放たれる言葉に、一拍遅れて赤面する。 「……隆司さ、もうちょっと、こう……」  腕で顔を覆えば、すぐに外される。  どうでもいいが、歴代の彼女たちに同じような態度を取ってはいなかったか、今さらながらに心配になってしまう。 「文句は聞かない。十年長く生きてるんだ。俺より背負ってるモノの重さも数も違うなんて、当たり前だ。だが、あんたが持っていなくて、俺が持っているモノもあるだろ」  それこそ、直行や早苗のようなあたたかい家庭などは知らない。自分には、隆司のような眩しい潔(いさぎよ)さと力強さはない。 「……うん」 「吐き出すのは弱さじゃない。愚痴との違いが解るか」  整理しなければ他人に伝えられないし、伝えることで更に新たな発見も生まれる。だが、その重さを耳にした相手を考えると、楽しい事柄ではないだろう。 「俺、面倒くさいよ?」 「ああ。面倒くさいな。独りで抱え込んで、グルグル悩んで辛気臭い。──ソコもひっ包めての『澤崎一磨』を受け入れてやる」  不遜な態度の中の許し。  言葉に、詰まる。 「観念して、俺に愛されろ」  取られたままだった手に口づけを。  隆司は、せせら笑いながら自分を傷つけた彼らとは違う。総てを知った上で、包んでくれる。あの、海岸から帰った後のような、一緒に毛布に包まれて与えてくれた時のような、あたたかな。 「ありが、とう……」  あふれ出る想いを伝える表現を探して。 「そう思うなら、いい声で啼け」  再びはじまった触れ合いに、肌が粟立つ。  首筋に掛かる吐息。 「……っりゅぅ、ぁっ」  鎖骨に走るちいさな痛み。  広がる火照りに気を取られている内に、次々と芽吹く新たな感覚。  不意に胸の突起を啄ばまれて、意図せず上がる顎。 「いい感度」  笑みを含んだ吐息に、背筋を駆け上がる何か。  遅れて気付かされる、快感。  胸元に、腹部に、わき腹に、刻まれる彼の存在。  促されるままに、抑えられず漏れる声。  力の入らない手で男の頭を抱き込めば、強い視線を寄越され逃げ場を失う。 「っぅじぃ……」  使い物にならない視野で、涙ながらに名を囁いて。  返事のように絡められたままの指に力を入れられ、高められる中で与えられる安堵。

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