11 / 63

11

 血が繋がっていない。  それが、一磨を焦らせ、同時に気付いていないフリを続けてきた。  血縁関係であったのならば、違ったであろう。  一磨と隆司は養子縁組をしたといっても、元は他人同士。  本人同士の気持ちが大きく影響する。ましてや、隆司が幼い頃に行ったクモの糸のように細いそれに、一磨は頼りにしがみ付いてきた。  ──家族が欲しかった。  家に帰っても迎えてくれる、迎えられることのできる関係を心の底から憧れていた。  いくら、芹沢家に入り浸っていたとはいえ、自室に戻ったときの侘しさ。ギャップが激しいほどに、自分が立たされている位置を何度も何度も確認させられた。  お前には、何もないのだと。  実際に、母親の恋人たちにも嘲笑われた。  親の顔も曖昧で、記憶もほとんど無いとんだ息子だなと。  しかし、それを支えてくれたのは芹沢家の人たち。  そして、隆司──。  くすっと笑みが零れる。  彼は自身が実父に似ている事をとても嫌うが、あの人の頭を撫でるあたたかな掌はそっくりだ。  一週間前に自分を抱いた彼の本心は解らずとも、嫌悪の塊でしかなかった、汚いこの身体に意味を与えてくれた。  それだけで、充分。  ──ああ、そうか。  偽りでも家族という脆く、細い繋がりに必死にしがみ付いていたのは?  何か一つでも繋がりを見出せないと離れてしまいそうで、不安を感じるから。離れたくなかった、という自分勝手な醜いエゴからだ。  抱かれているとき、恐怖を感じたのは?  隆司自身に恐れを抱いたのではない。怖く感じたのは母親の恋人達と重ねるのが嫌だったから。自分の中で彼らと隆司が同じカテゴリーの中にあるのを拒否した結果。  静まり返った室内に一磨のポツリとした呟きが響いた。 「そっか、すき、なのか。隆司のこと」  親子としてだけではなく、それ以上のものとして。  ぱっと閃いたその言葉がしっくりときた。  まるで、迷子の暗闇の中で見つけた一つの灯(ともしび)のように。  嫌悪の自分の人生と身体が、彼と過ごした日々が意味をもたせてくれる。  抱かれた身体も、親子の関係にも戻れなくなった今となっては愛おしい。  左腕に残ったぬくもりをそっと抱(いだ)く。  ああ、自分は隆司のことが好きだったんだ。  事実に気付いたことですっきりしたが、今更自覚しても遅い。  終わったことだ。  一磨は徐々に明るくなってきた室内に、陽が昇ってくるのを感じて窓を見つめた。

ともだちにシェアしよう!