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「──え?」
不意に自分以外の力が働き、ソファの背もたれに強く引き寄せられる。
自身で抱き寄せた腕ごと包み込まれた腹部。
背後に感じるぬくもり。
そして、首に掛かる吐息。
──まさ、か……?
呆けて真っ白になった思考から一変、思い当たった事柄に一磨は暴れだした。
ばたつかせた足が近くにあったテーブルを蹴り飛ばし、脛(すね)が痛いだとか、マグカップが音を立てて砕けたとか、そんな事はどうでもいい。
力の差から抜け出すことが叶わないことも承知だが、抵抗をやめることはできない。きつく眼を閉じ、子供のように拒絶のためにかぶりを振る。
「っや、だ! はなっ、放してっ!」
もう、たった一度でも優しくされたら、離せなくなる。
縋ってでも、しがみ付いてしまう。
聞かれただろう、独り言の内容よりも、それが一番怖い。
だから、お願い──。
「黙ってろ」
「ぉね……んンー…」
強引に顎を上向かされ、囁かれた通り、言葉を紡げなくなる。
歯列を割られ、上顎を下顎を。逃げる舌を追い詰められ、絡め取られ暴かれる。
荒れた吐息も奪われる。
混ざり合い、溢れた睡液が口角から筋を作って、首筋を伝い襟元にシミを作る。
身動きすら許されないほどの強い力で拘束する腕に、躍起になって剥がそうとした指の力は抜けて絡みつくだけとなる。
背筋を仰け反らせた苦しい姿勢も力が抜け、彼とソファにくったりと、凭れかかってしまう。
──アツ、い。
腹部に回された彼の腕も、顎を固定された手も、痛いほど抱きこまれた背後も、覆いかぶされ合わされた唇も──。
抜けていく身体の力とともに、思考力も欠いていく。
もう、どうすればいいのか、解らない。
「……はっ」
どちらかともなく甘く乱れた吐息が漏れる。
肺に急激に酸素がなだれ込み、胸が苦しくなる。
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