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「いいか、しっかり聞いてろ」
「……ぁ」
苦い顔の彼に、濡れた口唇を拭われる。
身体を反転され、隆司の方を向かされる。
「義父(ちちおや)も、保護者も、家族ごっこも要らない」
──わかってる、よ。そんなこと。
なんで、何度も言うの?
もう、いいから。
そこまで、解らず屋じゃない。
痛む胸に自分でも、顔が歪むのを自覚する。
「俺は、澤崎一磨、あんたが欲しい」
ふっと微笑まれ、戸惑う。
──何が、どう違う?
「無駄に深く考えて悩んで落ち込んで、その実(じつ)肝心な所は抜けている。自分に向けられている好意には、からっきし気付かない鈍感。そんな、あんたでいい。思慮深く完璧な、気を張った保護者は要らない。もう、頑張らなくていい」
やさしく両頬を包まれる。
「そのままの、あんたがいい。一人で抱え込むな。その眼を俺に向けろ。俺に寄越せ、あんたの全部を」
隆司の声以外の音が全て消え去った。
──いま、なんと言った?
声もなく瞠目する一磨に隆司は眉を顰めた。
「……聞いてるか?」
「え? う、うん……でも、解んない、よ?」
「頭使え」
「……う」
保護者は要らない。でも、澤崎一磨は要る……?
隆司と親子になった瞬間から、一磨は彼の保護者になった。見守る義務が生じる役目である。年齢は法的範囲内では未成年であるが、隆司は自己で決定を下し、処理する能力は充分にある。彼が保護者が要らないというのは、解る。
しかし、澤崎一磨は何もない。強いていえば、看護師と自動車の免許があるくらい。
相当、変な顔をしていたのか、隆司に溜め息を吐かれた。
「俺は気にしないが、あんた、親子で恋愛できると思うか?」
「? 難しそうな気がする」
「だろうな」
それが、なんだろう?
しばし沈黙があり、隆司は諭すように噛み締めるように言葉を紡いだ。
「いいか? 俺と、あんたの、事だ」
隆司と、自分の──?
…………まさ、か?
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