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いつの間にか、ボタンを外され肩を剥かれていた。
腰部から、腹部から、彼の手を感じる。仰け反る胸元には唇。
「……っん、ぁ」
途中まで肌蹴られた服が二の腕に絡んでいるせいで、肘から手先までしか動かせない。結果的に、自分を苛んでいる男の頭部を包むことしかできない。
ふっと笑われる。
「強請(ねだ)ってるようにしか見えないぞ」
「っや、……んン!」
突起を含まれたまま喋られ、もどかしさが一磨を襲う。
その言葉にも煽られる。
彼の手が、唇が目的を持って彷徨う。
素肌に感じるそこかしこが熾火(おきび)となって一磨を煽る。
絶対に、今自分は情けない顔を曝している。全身はこれ以上無いくらいに熱いし、視界はゆらゆら揺れている。
「っも、ぅ……、ふぁっ」
今度は下から唇を貪られて、眼を回す。
いつの間にか絡められた指を必死に握り返す。
「んンー……」
快感で潤んだ涙は止められず、ぽろぽろと溢れる。
「一磨」
耳元で囁かれるそれも、凶器。
角度を変えて、再度攫われる。
ぞわりと背筋を何かが駆け上がる。
自分を見上げる瞳に捕らわれる。
もう、逃げられない。
震える声で彼の名前を紡ぐ。
「っ、りゅぅ、じぃ……」
返事のように、目尻を舌で拭われる。
「ン、ほんとに、おれ、でぁ、っぃいの……?」
「あんたがいい」
足掻きを、澱みなく返される。
彼ならば、年上の女性でも、可愛い女の子でも男の子でも、格好いい男性でも様々な可能性があるのに。
それなのに──。
「いやか」
疑問ではなく、一磨が否定しない前提の揺ぎ無い言葉。
返事はちいさく振る首。
飛び散る滴。
「なんにも、っない、よ?」
親も兄弟も、ましてや一磨が誇れるものなど、なにも無い。
「それでも、こんな、こんなに、っくれる、の? もらって、いいの?」
──愛情を。
この自分には、いっぱいいっぱい、あふれるほどの。
「ああ」
「っぁりが、とぅ……」
ひくひくとしゃくり上げて、一磨は目の前の彼にしがみ付いた。
情事を共にする人間の背に手を回したのは初めての経験だった。
ふわりと浮遊感を感じ、気付けばヒンヤリとしたベッドに下ろされた。それだけ身体が火照っているという証明になっただけ。隆司の部屋だ。
まるでガラス細工か何かのように丁寧に扱われる。
「ぁ……」
覆いかぶさるようにして見つめてくる隆司。その顔は電気を付けなくても、部屋は充分に明るく、改めて現在の時間帯とこれから行うであろう行為とのギャップに今更ながら羞恥を覚える。
とても見ていられなくて、彼から視線を外す。
同時に彼からも自分を隠すように、腕で顔を遮るも、すぐに外されてしまう。
ふっ、と笑われる。
「今さらだろうが、馬鹿」
「っ、あ、あの時はっ!」
「それどころじゃあなかったな」
あの、一週間前の事だ。
早口になり、ぱくぱくと開閉する唇を落ち着かせるように撫でられる。
「優しくしてやるよ」
無理だろうけどな、とは隆司の心の中だけの声である。
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