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「……っあ」
左腕の付け根も丹念に古傷を確かめるようにして触れられる。
──こわくない、だいじょうぶ。
隆司とならば。
眼を閉じ、これから起こることに、身体は勝手に期待に慄(おのの)く。
目元に唇元に喉元に胸元に臍(ほぞ)に臀部に際どい内股に彼を感じる。
余すことなく感触を覚えこまされ、全身は火照りじっとりと汗ばむ。
ちいさな声を上げつつシーツを握りしめた指は解かれ、目の前の男に回すようにと声もなく促される。
「声、押さえるな」
ねっとりと耳介を舐められ、吐息と共に舌を入れられる。
「ゃ、っあ……ぅふっ、は」
口唇を割られ、彼の長い指が口腔内を弄(まさぐ)る。
力なく縋った指先は、彼のその進入を甘く許しただけ。
閉じられず、溢れる声と睡液。
彼の指がテラテラと光る。
引き抜かれた指にそのまま周囲を拭われる。
「……あんた、エロいな」
「っあ、んんっぃやぁ」
直に性器を包まれ、あまりの快感に仰け反る。
逃げを打つ一磨を許さず、その手はキツク、時にゆっくりと残酷に追い上げていく。
「っひっ……、も、もぅ、ゆるしっ、あぁあっ」
身体の内側(なか)から掻き回される感触に、泣きながらかぶりを振り、もう止めてと許しを請う。当然のように許しは得られない。
自分の上げる声と彼の荒い息遣い。
ねっとりとした重ったるい卑猥な水音が室内に響く。
爛(ただ)れた体内でバラバラに動かされる爪先が一磨のいいところを掠る。
自分ではどうしようもなく、ビクビクと跳ね上がる。
しかし、それだけでは物足りなくて、勝手に上がる強請るような喘ぎ。
「っは、いい感度」
先走りと、継ぎ足され続けたローションでそこはグッショリと濡れていた。
意味もなく、足の指が開閉しシーツに皺を作る。それは同時に一磨の快感の深さでもある。
「も、ぉね、おねがっい、じめな、で……」
自ら伸ばす手。
光の中の、まぶしい彼に。
「っりゅぅじぃ……っひぁっあああぁっ」
強く抱きこまれて、深く穿たれる。
いっぱい、いっぱい。
想いも、身体も。
「っ……息、しろ」
「ぁ、っは……あぁ、んっ」
「一磨」
名を呼ばれ見上げた先には、男の表情(かお)の隆司。
重くなった睫毛を横切り、目尻から涙が筋をつくる。
「俺を見ろ」
奥深くまで一磨を苛んでいるものが、ゆっくりと引き出されていく感覚に追いすがるように、埋め込まれていく感覚に逃げるように。
そして、時折探るようにして回される腰に総毛立ち、悲鳴を上げる。
「っ、んっあっあああぁー……」
グズグズになった縁を弄(いじ)られる。
ヨすぎて、苦しい。
息もまともに出来ずに、荒い息と共に浅く胸を上下させるだけ。
抑えられない不随運動。
しかしそこで確かに男を実感する。
「も、むり、ぉねっぁっ、だめ、だかぁ……いっあ、」
「好きなだけイけ」
「あっ、あ、ああぁ……ぁん、っひっ」
溺れて果てた一磨は許されず、今度は後ろから抱きしめられる。
背後からの繋がりによって、先程とは違うところに切っ先が当たり、噎び泣く。
腕は身体を支える事もできず、目の前のシーツに力なく縋る。
覚えこまされている楔に全てを攫われ、ワケも解らず回らない舌で彼の名を幾度となく紡ぐ。
猥雑に蠢く襞に男が流されないよう、奥歯を噛み締めている事も知らないで。
「ん、ぁりゅぅっぃぃ、りゅうっぁあっ」
自分に囁く低い声も、彼の荒い息も遠い。
うなじに落ちる口付けも、崩れ落ちる腰を支える逞しい腕も、暖炉のようにアツイ身体と同じネツを持っている。
「いっ、あああぁっ……あぁ」
言葉も出ず、意味のない声が悲鳴と共に上がる。
「……っかず、ま」
甘く囁かれるその一言は一磨を頂に押し上げるのに充分だった。
「ああぁー……」
再び白濁を吐き出した一磨は余韻を引き摺るようにして、閉じることを忘れた口唇でか細く声を伸ばす。
それを引き戻され、奥深くで熱い飛沫(しぶき)を感じる。
力の抜け切った一磨にゆったりと彼が被さってくる。
「……ぁ」
ずるりと引き抜かれていく感触に知らず声が漏れる。
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