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「ねぇ、隆司。一週間前、どうしたの?」
「……悪かった」
「怒ってないよ? 何か、あった?」
一磨は隣で横になる隆司を見上げた。
しばらく黙っていたが、彼は観念したように息を吐いた。
「自分が思ってたよりも、子どもだってことだ。俺は」
「そう?」
「整理してたら、日記を見つけた。直行の」
隆司の実父の。
「直行さんの? そんなものあったんだ」
「あんたと出会った時の事も、その後も書いてあった」
入水自殺未遂も強姦後の事も。
「……っ、そう」
それを読んで、隆司は何を思ったのだろう。
嫌悪感を抱いただろうか?
やさしく頬を撫でられ、眼を細められる。
「迷ってた」
顔のラインを確認した指は、今度は一磨の髪を梳きはじめる。
「あんたとこれから、どうすれば良いかを。俺は、二十二になったばっかりのあんたのお荷物になった。当時これから社会で駆け出す所だった、あんたの逃げ道を塞いだ元凶だ」
そんなこと、ないのに。
一磨は緩くかぶりを振り、声もなく隆司を見つめて続きを促した。
「気付けば、親子になって六年だ。俺は、あんたに何ができた? 直行のように、あんたに兄の代わりもできない」
自問自答しているそんな時に、実父の日記を見つけ彼らの出会いを知った。
そして寝ぼけた一磨に直行と間違えられ、更に自分の存在の儚さを、亡くなってまで一磨の中に存在する実父に苛立ちを覚えた。
苦い顔をした隆司に一磨は手を伸ばした。
「隆司は、隆司だよ?」
他の誰でもない。
何にも代えられない、大切な宝物。
手を取られ、食まれる。
「ああ」
「……ん」
彼の熱を感じたソコから、落ち着いたと思われた火種が蘇ってきてしまう。
もう、無理なのに。欲は底を知らない。
「一磨」
「んンっ」
短い時間、触れ合う唇同士。
耳元で囁かれた言葉に、一磨は声もなく目を見開いた。
「『ごっこ』じゃない、家族になりたいな」
「う……ん……」
薄暗くなっていく部屋の中で、一磨は今度こそ静かに瞼(まぶた)を下ろす。
一週間ぶりにいい夢を見られそうだ。
目尻を伝う滴を拭う感触に身を委ねつつ、意識を手放した。
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