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 隆司の口を塞いだ両手はいつの間にか外され、逆に痛くない程度に強く彼に掴まれていた。その高い体温から徐々に伝わってくるように彼の言葉の意味がじわじわと染み渡っていく。 「そんなもんに嘘ついて何の得がある、ばか」 「でも」 「でももクソもない。あんたも、ちっとは自覚しろ」  彼の顔が近づいてきて、目元をぺろりと舐められる。逆側も同じように。その後を軽く押さえるようにして、やさしく指が撫でる。  常々引っかかっていた事があった。母親は日々男を連れ込み、父親は誰とも解らず──多分彼女も知らないであろう──そんな中彼女の付き合っていた人間から虐げられていた自分を、救い出してくれた直行。恩人であり大切な友人である彼らを、隆司の両親を急に亡くして途方に暮れた。  ──そして、隆司が居た。  世間的には、施設に入れられそうになった彼と生活を共にして経済を支えた自分に対し、中々できる事ではないと囃(はや)し立てる人たちも居た。しかし本当は、ぽっかりと空いてしまった悲しみを埋めたかっただけだ。そんな自分勝手なわがままで引き取ってよかったのだろうかと、何度も何度も自問した。答えが出たためしがなかった。  その『こたえ』を、いま、与えられた。  しばらく呆然としていた一磨にいい加減じれったくなったのか、声が掛けられる。 「で? いつになったら泣き止むつもりだ」 「わかん、な……」  はじめは自分が涙を零していた事にも気づかなかったほど。いつ止まるのか知るはずも無かった。  もうすぐ三十だというのに、なんということであろう。居たたまれなくなって、涙を拭う振りをして彼の視線から逃れるよう顔を覆う。  彼はひとつ軽い溜め息を吐いて、滴のついた頬をなぞる。 「そうか。今日はこの際、好きなだけ泣いてろ」 「ふぇっ?」  言葉の後半は一磨の首元に掛かっており、くすぐったさに身を竦めた。  隆司の意図を汲み取り、抵抗しようとするも軽々と封じ込められてしまう。ついには、突っ張った両手をひと括りにされた。着ていたものも崩され、肌が曝される。 「ね、ねえっ離しっ、んンっ」  隆司に触れられたところが、きつく吸われたところが熾火(おきび)となって体温を上げる。  徐々に場所を移し下がっていく隆司の口付けに更に視界が悪くなり、ひくひくとしゃくり上げていた喉奥に息まで上がってきた。  もう、頭の中がぐちゃぐちゃでどうすれば良いのかがまったく解らない。  女性のように膨らんでいない胸の飾りに、遊びを見つけたこどもの様に執着を見せて甘ったるいだけでなく時折ぴりりとしたキツイ刺激が与えられる。 「いぁ……っふ、ね? っねがい……しゃ」 「どうした」  突起を含まれたまま喋られ、どうしようもない快楽に彼の髪に指を絡め左右に首を振る。ぱさぱさとシーツに散らばった髪が音を立てるが、それも遠くに聞こえる。 「あびて、な……ン、シャワー。汚い」 「あんたは汚くなんかねえよ」 「ひぅっ……あぁっ、そこ、ヤだぁっ」  いつの間にかズボンも下着も取り除かれ、開かれた内股の際どい場所にあるヤケドの跡に口付けが落ちる。そこは母親の付き合っていた何人目かの男が煙草を押し付けたところである。隆司はいつもそこをしつこく弄る。嫌悪の一つであった場所がいつしか敏感に快感を得る印になった。  ──良過ぎて、こわい。  不安に揺れて隆司を窺えば、快感を示している自分のものと後ろをいじっている彼の視線と絡み合う。 「いい加減、変な事にこだわらずに流されちまえ」 「んんっ」  低い声で囁かれる。軽く食まれ耳の中へ進入してくる舌と、彼の指が身体の内側を探る二つの水音にも煽られる。  ぞくっと何かが背中を駆け上がり、肌が粟立った。  ばらばらに指を動かされ、強制的に高みへと引きずられる。 「あ……あっ……あぁ」  思考もまともに働くなり、それこそ快感に流されるだけの浅ましい生き物のように。  知り尽くされた内部のポイントをきつく摩り上げられ、どうしようもなく仰け反ると逆にそこを擦り付けてしまう。不規則に開閉する足の指がシーツを掻き毟り、皺を深くする。その媚態に隆司は満足そうに目を細める。それを確認するほどの余裕とクリアな視界を一磨は持っていなかった。  「……も、もうぅ……アッん」 「熱いな。腰、浮いてる」  妙に冷静な隆司の声音に、自分との差を思い知らされる。全裸にされ息を乱している自分と、襟元が少しはだけただけの隆司。羞恥に身体が朱に染まる。 「……んっ」 「なんだ」 「っだって、隆司にン、なにもしてない、よ?」  さっきから振り回されたりなだめられたりしているが、一磨からは何もモーションを掛けていないことに気がついたのだ。  いくら仮とはいえ親子で男同士で隆司の方が若いからといっても、これは少し情けない。

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