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「期待はしていないから、いらん」
「そっ……あ……あ…んぅあっ」
隆司の台詞に若干傷つきながら、内部を探る指がぐっるっと大きくかき回し抜かれていく感触に喪失感を味わった。
「今日は仕事終わりで、少しは手加減するつもりだったが、まあいいか。力抜け」
「ひぁっ……あぁ……んむぅ……」
あつい。
入ってくる。
いっぱいに、される。
久しぶりの行為で痛みと快感で恐れて無意識に引いた腰を、しかし強い腕で捕らえられた。指で慣らしたとはいえ、圧迫感はかなりある。まさに串刺しにされているよう。引きつるような痛みを伴うが、それも彼の深い口付けと前への刺激で誤魔化される。
同時に、職業柄短く綺麗に切りそろえられた爪が一度空を切って、それから隆司のシャツを掴む。その強張った指先から力が抜けて落ち着くのを男は待った。
知らず、薄く開いた唇にやさしいキスが再度落とされる。濡れすぎてほとんど視界は見えていなかったが、陶然として瞼を閉じる。その拍子に滴もこぼれる。
──それ、すき。
男性の身体ができる前の幼い頃から複数の男から身体は開かれてきたが、唇に落とされるキスを知ったのは、その随分後のことであった。
それを知ってか知らずか、隆司からはその甘い行為が多い。
一磨の緊張が解けていくのはそれほど時間は掛からなかった。次第に余計な力が抜けていき、徐々に快感を追っていく。
隆司を銜え込んだ場所は熱を持ち、ゆっくりと蠕動していった。動かなくても一磨の腰はびくびくと痙攣をするように捩れ、その痴態を隆司は楽しんだ。
「ん、やぁ……っね? あっ……」
「動いてるぞ」
「っヤッあぁっ、ひぃっ……あぁ」
どことは言わなかったが、隆司の手は彼をいっぱいにほお張っている縁を撫でる。
──こわれる。
与えられる快感にぐずぐずに爛(ただ)れる身体を止められず、途切れ途切れの悲鳴を上げる。
「は、もぅ……りゅう……あ……あぁ」
抜かれていく感覚に喪失感を感じ、これ以上は無理だというほど奥までねじ込まれていく。ゆっくり、深く動かれて全身が総毛立つ。
時折探るように腰を回されポイントをそらされる。
ついでのように胸の飾りも啄ばまれる。
「っあ……あ……んンぁ」
「一磨……」
名を呼ばれて見上げると、意志の強い瞳と出会った。今はいつも以上に表情も野生的だ。
彼に汗で張り付いた前髪を掻き上げられる。それすらも感じてしまう。
隆司の突き上げるリズムが速くなり、一磨は終わりに近づいている事にさえも気付かなかった。
頂に昇り、落ちていく感覚に身を任せながら奥で灼熱を受け入れる。
「あぁ……」
余韻を引くように一磨の意識も遠のいた。
「まあ、仕方ないな」
汚れた身体を拭っていた間も後も一向に眼を覚ます気配の無い一磨の髪を弄びながら、隆司はひとりごちる。
五連勤と一口に言っても、一般の会社と違い日中働く勤務と夜勤とが組み合わせられての勤務である。日勤と夜勤との切り替えは特にハードで紙面上で八時間労働としても、実際には残業もあるわけで、睡眠時間多くて三時間で出勤というのも多々ある。睡眠パターンもまちまちで、事実睡眠導入剤や精神安定剤を内服する看護師も少なくない。一磨も酒は強くないくせに、飛び切りアルコール度数の高いものを持っている。本人は隠してあるつもりのようだが。
そんな過酷な勤務で、更に人の命を預かる業務であり、危険も伴う。モンスター患者・家族も溢れている。従事者は減っていく一方で増えるわけがなかった。
一磨がそれをしなかった──できなかったのは一重に自分の存在があったためである。もしも、自分が三年後・一磨が自分を引き取った年齢でまだまだ世話の掛かる子供を抱えて同じ事をやれといわれても、まったく自信はない。一磨はそんなギリギリな状態に耐えてきていたのだ。
先程ぽろりと漏らした本音に大粒の涙を流したのがいい例だ。
本人はまったくの無自覚のようだが、ふとした瞬間に一磨は今にも崩れ落ちてしまいそうな表情をする。
「忘れちまえ」
頬にある涙の後を辿る。おだやかな寝顔に知らず、目元がゆるむ。
これを、手に入れたかった。
これと同じ表情を前に隆司は両親に尋ねた事があった。
『ねえ、あかの他人とずっと一緒に居るってどんな感じ?』
『あかの他人?』
珍しく早く仕事がはけて自宅に戻っていた父親が眼を丸くした。
『兄弟とか、親子とかじゃないやつ。はじめはあんた達も、あかの他人だろ』
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